ブッシュ大統領は「アメリカ史上最悪の大統領」という評判が固まりつつある。そのためハリウッドのスタジオがとんだ災難に陥っている。ハリウッドは昔からアメリカの世界観をコンセプトに映画を作って来た。アメリカこそ世界の警察として正義を代表し、歯向かう敵を徹底的に懲らしめる。そして最後に悪は必ず滅びると描いて来た。
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「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」はハリウッドの映画会社ソニー・ピクチャーズが日本人の監督・俳優を集めて作った映画だ
ところがブッシュが言う「悪の権化」イラクを叩くため始めた戦争で分かったのは、イラクには核兵器も化学兵器も何も無かったということ。戦争の大義名分が無くなった。唯一あるのは衣の下に見え隠れする石油の利権で、ブッシュはそれを狙った私欲だけだと明らかになってきた。最初に大義名分に付き合った各国はあきれ返って、軍隊を続々引き上げている。こんな情勢が映画の世界に反映しているというのだ。
映画のグローバル・マーケットは北米が圧倒的に第一位だったが、北米以外の海外市場も年々大きくなり、今や北米を超えるスタジオの収益源になっている。その海外市場でハリウッド映画が受け入れられなくなったとなると一大事だ。アメリカの芸能業界誌「ヴァラエティ」(10月19日号)は、その対策としてハリウッドのメジャー・スタジオが世界各国でその国の人たちの価値観に合い、彼らに受け入れられる映画の製作に力を入れ始めた、と報じている。
最初は外国の著名な監督をハリウッドに招いて作品を作らせていたが、それでも十分でなくなると、メジャー・スタジオは各国の支社にその国での独自の製作を任せるようになった。10月半ばにスペインで封切ったワーナー・ブラザースの「The Orphanage」は、その週末だけで10億円の成績を上げ世界公開の予定が組まれた。フランス映画と手を結んだ一昨年の「ロング・エンゲージメント」の世界的な成功も記憶に新しい。最近ではアブダビから数千億円の製作資金を獲得している。ユニバーサルはロンドンに「インターナショナル・スタジオ」を設置して海外製作に専念させているし、パラマウントはフランス、ブラジル、メキシコに製作担当役員を置いている。ディズニーは中国、インド、ロシアに焦点を絞ってプロダクションに当たる。どのスタジオもハリウッドではその国の言語や文化、習慣が分からないので現地に大幅な裁量権を与えている。
しかしこの世界戦略に一番熱心で10年も前からローカル・プロダクションに取り組んでいるのがソニー・ピクチャーズだ。10か国で既に35本の映画を製作し公開している。カンヌに出品した三池崇史監督の「スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ」などもこのラインで作られた作品である。ソニー担当役員は「ローカル製作は失敗もあったし成功もした。しかし全体としてスタジオは儲かっている」と。
アホなブッシュが代わらない限り、世界各国でメジャーが製作する独自の映画は、これからも益々増える傾向にあることは確かだ。