世間が高校を判断するとき、どこを見るか。大学合格実績である。悲しいが明確に数値化できる実績こそが、世間様の高校の判断基準だ。
その合格実績を飛躍的に伸ばし、世間様の評価を高めることに成功した高校がある。京都市立堀川高校。今回の「プロフェッショナル 仕事の流儀」ゲストは、その校長・荒瀬克己だった。
合格者実績を上げる・・・私は真っ先に『ドラゴン桜』を思い出した。底辺校を立ち直らせるため、東大合格者を養成するクラスを開設。脱ゆとり、詰め込み教育こそ全て!という、まあ見ているだけなら非常に清々しい作品だった。
だが、この校長の教育は、これとは対極にあった。
まず、「探求科」を設置。週に2回、「探求基礎」という授業を行っている。独自のカリキュラムに基づいて、「三秒ルールの信憑性」や「資産運用による利益の比較」といった普通の高校ではやらないような研究を行う。その研究にのめり込んでしまえば、あとは生徒が勝手に受験勉強に取りかかる。自分の研究を極めるために、そのための設備が備わった大学に行きたくなるからだ。その結果、京都大学をはじめとする大学への合格者が急増した、というわけだ。
一般の高校の授業では、生徒の勉強意欲を高めることはまず出来ないと思っている。その勉強が何に結びつくのか、生徒は分からないからだ。大学に行く動機もない人間が、進んで受験戦争に立ち向かうだろうか。しかし、「あの大学に行きたい」という明確な理由があれば、生徒は自ら勉強する。
私の高校時代を振り返ってみると、1、2年生のうちは大学に行きたい動機が全く見つからなかった。成績も全くお粗末なものだった。しかし、3年に入ってようやく本当に入りたい大学が定まった。そうなると人間は面白いもので、今まで見向きもしなかった入試案内に目をやるようになり、なんとしてでも入試を突破する方法を模索し始めた……
今や懐かしい言葉になりつつある「ゆとり教育」だが、荒瀬の教育は「ゆとり教育」の最も成功した例のように思える。通常の5教科以外の授業で生徒に種を植え付けて、それを成長させるために生徒は必死に課題に取り組む。
必死に芽を育んでいる後輩がいることを知った先輩は、せいぜい笑われないように振る舞わなければいけない。ちょっとヒヤッとした放送でもあった。