フランスの記録映画「皇帝ペンギン」(05)の成功以来、極限の世界に生きる動物たちを主人公にした映画がどっと出て来た。それまでも「ディープ・ブルー」(03)など極地の海中を撮影した作品はあったが、ペンギンの映画(「ハッピーフィート」など)や南極・北極の動物(白熊、アザラシ、シャチ、セイウチ、北極キツネなど)の映画が急増したのだ。特に「ホワイト・プラネット」(06)は白くまの母子のドラマを描いた佳作だ。この「北極のナヌー」も白熊が主人公だが、地球温暖化に焦点を当てているのが特徴だ。
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今年のアカデミー・ドキュメンタリー賞を獲得したアル・ゴア元副大統領の地球温暖化を告発する「不都合の真実」が、今更ながら深刻な問題を見る人に投げかけている。経済に影響がある、と京都議定書の批准を拒んでいたブッシュ大統領でさえ、環境問題を口にするようになった。今のままで行けば地球上に北極が無くなってしまう。温暖化の影響により、地球上では海氷面積が10年間で10%ずつ減少しているそうだ。2040年には北極が地球上から消失するという。
北極の春、白くまの赤ちゃんナヌーと双子の弟が氷の巣から顔を出す。巣の穴の中で6か月も何も食べずにいた白くまたちは早速エサを求め海に向かう。氷の下にいるアザラシを狙うがなかなか上手く行かない。地球が暖かくなり狩場が段々狭まって来ているからだ。飢えた親子を時速100キロを越すブリザードが襲い、弟は力つきて倒れる。そして独り立ちするナヌーが母ぐまと別れる時もやってくる。氷が解けて棲むところが無くなってきたナヌーは、海に飛び込み新天地を求めて泳ぎだす。
母ぐまが氷を割って獲物を捕えるシーンには驚く。背伸びして前足からダイビングするようにして氷を割る。下にはアザラシがいるがそんなにドジでは無い。何回も逃げられ失敗するがたまに成功して得意そうな母ぐま。
監督とカメラマンはアダム・ラヴェッチとサラ・ロバートソンの夫婦。ナショナル・ジオグラフィックから長編ドキュメンタリーのオファーがあった時、即座に北極ぐまの素材を追おうとし、10年の歳月を費やして完成させたという。10年間の莫大な映像記録からドラマを作ったわけだ。
しかし正直言って「皇帝ペンギン」や「ホワイト・プラネット」には敵わない。先行した映画は、観客にとって初めてだという衝撃を与え、後続の作品のインパクトを薄めているからだ。特に「ホワイト~」とは主人公が同じ白くま親子で、ドラマまで似ているのでその感を強めている。映像的にも前2作品の方が迫力があり優れている。自然のドキュメンタリーを得意とするフランスに、映画王国であろうともアメリカの作品は追いつけない。
2007年アメリカ映画、松竹配給、1時間24分、2007年10月6日公開
監督・撮影:アダム・ラヴェッチ、サラ・ロバートソン