横綱朝青龍が何をしでかし、どんな精神状態にあり、どこで何をしているか――この夏、スッキリ!!をはじめとするワイド系番組は追及し続けた。まるで凶悪シリアル殺人犯の潜伏先を捜索するかのような執拗さであった。
しかし、大相撲時津風部屋で起きたのは、本物の殺人事件だ。暴力で人を死に追いやることに比べれば、仕事をサボったサボらないなど、塵芥ほどの問題でしかない。
番組によると、亡くなる前日には、親方にビール瓶で顔を殴りつけられ、「可愛がってやれ」などと言われた兄弟子たちから、殴る蹴るの暴力を受けた。当日は、金属バットで殴られたという。
顔を隠した元力士がVTRで登場。頭を蹴られて昏倒、イビキをかき出した例、鉄の棒で頭を殴りつけ、血が噴き出しているのにさらに殴る蹴る、など陰惨な暴力が常態化していた実情を生々しく証言する。
「朝青龍問題のとき、品格、品格ってさかんに言われてましたよね。これは、品格どころの次元じゃないですよ!」と番組コメンテイターのテリー伊藤。さらに相撲協会の対応を批判する。「この問題で理事長が一言も発言してないのもおかしいし、第三者機関を設置して調査するわけでもない」
横綱の牧歌的な騒動で見過ごされた悪質な犯罪。ワイドショーには、朝青龍以上の時間をかけて執拗に追及、報道してほしいところだ。
文
ボンド柳生| 似顔絵 池田マコト