映画の中で煙草を吸うシーンがあればR指定(Restricted=17歳未満は保護者同伴が必要)にする。今年5月10日、MPAA(アメリカ映画協会)が打ち出した方針だ。R指定で映画観客のコア層が排除され、興行成績に大きな影響が出るこの措置には、二つの問題が含まれている。
(c)2007 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
「ブレイブワン」にはジョディ・フォスターが煙草を吸うシーンも登場する
1)本当に映画で青少年の喫煙が習慣化されるのか?
ダートマス・ヒッチコック医療センターのジェームス・サージャント博士は、9月上旬に発表した論文で「映画で煙草を吸うシーンを見ると生涯に亘り喫煙する習慣が形成される」と述べている。その研究によれば「そういうシーンに接すると喫煙者になる危険度は2倍になる」と。
R指定にされたら堪らない映画プロデューサーたちは、映画の中で対抗措置を講じている。例えば今秋公開される「ブレイブワン」。愛する人を殺され復讐を誓う主人公に扮するジョディ・フォスターは神経質にいつも煙草をふかす。隣人の黒人女性が近寄り「煙草を吸うとガンになるよ」と、ストーリーに関係ないセリフを言う。NYで見た「Balls of Fury」(だと思うが)ではいつ死ぬかもしれない殺し屋が煙草を吸っているシーンで「煙草を吸うと死ぬよ」と友人が忠告する。「喫煙は健康に良くありません」と箱に書いてある文句をセリフにして規制を逃れようとする努力と見てとれる。
2)例外ばかりでザル規制なのではないか?
MPAAのR指定では「歴史的描写はその限りでは無い」という項目を付け足している。例えば60年代や70年代の映画で喫煙シーンを無くしたら、画面は作り物で嘘っぽくなる。ジョージ・クルーニーの「グッドナイト&グッドラック」などは当時のTV業界内面を描くのに煙草は不可欠だとしてOKとなった。
こんな例外ばかりで規制はザルだ、抜け道だらけだ、と主張するのは青少年喫煙を防止しようとするアメリカン・レガシー・ファウンデーションのシェリル・ヒールトン博士。規制が敷かれた後の最初の映画「ヘアスプレー」で高校生の女の子たちの喫煙シーンが出てくるのに、R指定でなく、もっと緩やかなPG指定(Parental guidance suggested=保護者同伴が望ましい)となっていると弾劾する。映画の中で「瞬間的に10代の喫煙はありました」(Momentary teen smoking)と表記するだけでR指定を逃れていると。
このような批判に映画製作者たちは反発する。この映画の舞台は公民権確立夜明け前1962年のボルチモアで、人々は10代を含めて今よりも煙草を吸っていた。そしてこの映画は紛れもなく歴史を描く映画なのだと。喫煙禁止論者と映画製作者とのつばぜり合いは更に発展しそうな雲行きだ。