「オフサイド・ガールズ」
男装してスタジアムに潜り込むイランの少女たち

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   イランについて我々の知識は乏しい。ブッシュ大統領がイラクや北朝鮮と並んで「悪の枢軸」と呼びアメリカと仲が悪いことや、日ハムのハンサムボーイでエースのダルビッシュ有君の父親の祖国であることは有名だが、ほかの情報はあまりない。


   だがサッカーになると、絶えず日本の行く手を遮る強力なライバルだということは皆知っている。2002年の釜山アジア大会の決勝でぶつかったのは記憶に新しいし、ドイツワールドカップにも激闘の末、共に出場できた。アリ・ダエイとかアジジ、バゲリなんて選手の名前も聞いたことがあるだろう。イランの一流選手はドイツのプロ・リーグで活躍している。

   「オフサイド・ガールズ」は国民的スポーツのサッカーに熱中する女の子たちが、禁止されている「男性スポーツの観戦」をしようとする話。1979年のホメイニ師指導のシーア派法学者による反体制勢力の革命以来、宗教の縛りが厳しくなり、女性は思うままに自分たちの欲望(それもたかがサッカーの試合を見るだけ)を満たせなくなった。それを乗り越え何とかしてスタジアムに潜り込もうとする涙ぐましい努力の様子を描いた抱腹絶倒の秀作だ。

   イラン代表チームがドイツワールドカップ出場をかけた大事な試合の日。大騒ぎをするサポーターたちを満載したバスはスタジアムに向かうが、一人大人しく座っている青年、いや(よく観察すると)少女がいる。男装して会場に潜り込むつもりだ。だがあっさりと入場ゲートで見破られ捕まってしまう。鉄柵に囲まれた仮設留置場に連行されるとそこには男装した少女たちが沢山いる。

   試合が始まる。この映画の面白さが一気に盛り上がる。大きな壁の向こうは熱狂する観客席、だがこちらからは何も見えない。歓声が上がる、見たい、見えない、いらいらする少女たち。ガードの兵士たちに試合を見せろと強硬に抗議するが勿論受け入れられない。そんなら試合の状況を伝えろ、と迫られた隊長がサッカーを知らない兵士に命じたから目茶苦茶の実況で更に頭に来る。「日本の女性たちは観戦しているのに、どうして私たちは駄目なの!」と食ってかかる。

   「オシッコ」と監視つきで男子便所に連れて行かれた少女が兵士を見事に巻いたり、隊長より身分の高い将校の制服で入場したものの、これも見破られて連行された上、軍服の変装は罪が重いと脅かされてしょげたりと爆笑の連続。厳しい宗教的規制の国で、十分ありうる状況だけにフィクションを感じさせない迫力がある。役者は使わず全員素人。実際に試合が行われているスタジアム内で撮影していて臨場感がある。

   監督はデビュー作「白い風船」でカンヌ映画祭の新人賞(カメラドール)を受賞したジャファル・パナヒ監督。この作品は第56回ベルリン国際映画祭で銀熊賞を授与されている。

恵介
★★★★☆
オフサイド・ガールズ
2006年イラン映画、エスパース・サロウ、パンドラ配給、1時間32分
監督・脚本:ジャファル・パナヒ
出演:シマ・モバラク・シャヒ / サファル・サマンダール / シャイヤステ・イラニ
公式サイト:http://www.espace-sarou.co.jp/offside/
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