「ちょっとキザですが」、この原稿をNYで書いている。夏休み最後のレイバーデイ週末は天気に恵まれ、タイムズ・スクエアは観光客で溢れ身動きがとれない程だ。
タイムズスクウェアの周囲にはたくさんのミュージカル劇場が集まっている
駐在員として住み慣れたNYを離れてもう10年以上になるが、年2回NYへ行かないと落ち着かない。目的はミュージカルで、6か月空けると新作がドンドン出ている。05年9月に見た「チキチキ・バンバン」や06年9月に鑑賞した「スウィーニー・トッド」、それどころか、この春見た「パイレート・クィーン 」や「カンパニー」ももう上演していない。新陳代謝が激しいのだ。
今回は「リーガリー・ブロンド」「ザナドゥ」やリバイバルの「コーラス・ライン」、オフ・ブロードウェイの「ウォルマートピア」「オルター・ボーイズ」を見た。秋になると「ヤング・フランケンシュタイン」「リトル・マーメイド」「シラノ・ド・ベルジュラック」が始まる。
オフを除けばこれらの多くは映画からとっている舞台だ。ミュージカルは小屋のキャパシティから観客数が限られており、舞台美術や俳優に金がかかるので、ロングランをしなければ元はとれない。今や121.5ドル(1万5千円)と高騰した入場料だが、舞台への初期投資2-3千万ドル(24-36億円)もかかり、利益を生むには2年近く満席にしなければならない。だから当る(と思われる)作品のみを舞台化する。
例えば有名歌手やグループの名曲集を舞台にした「マンマ・ミーア!」(アバ)の大ヒットを受けて、「ムービング・アウト」(ビリー・ジョエル)、「オール・シュック・アップ」(エルビス・プレスリー)、「リング・オブ・ファイア」(ジョニー・キャッシュ)などの作品群が雨後の筍のように出て来た。だが「ジャージー・ボーイズ」(フォーシーズン)を除いては、安易な作りでバタバタと死体の山。
やはり客が入るのは、昔当った舞台のリバイバルか映画の舞台化だというのが定説になってきた。オリジナル作品というのは難しい。例外は「アヴェニューQ」や「レント」(オペラが下敷きだが)のようにオフから勝ち上がって来た作品。既に評判が固まっているから安心して投資できる。オフでこの8月中旬に登場した新作で、ウォルマートの世界支配を皮肉った「ウォルマートピア」などは曲も良いしセリフも可笑しいので1年後には確実にブロードウェイに上がって来るだろう。
映画から舞台化されヒットして、また映画に戻ってくる作品も多い。最近の「プロデューサーズ」や「オペラ座の怪人」に続いて「ヘアスプレー」がこの10月に公開される。デブ母娘を主人公にした話で、ジョン・トラボルタのまん丸に太った母親が愉快。公民権夜明け前の1962年、ボルチモアのTV局。ダンスコンテストでの白人至上主義者対差別撤廃主義者(人種ばかりでなく、デブへの差別も)の争いをポップな曲とダンスに乗せて楽しく見せてくれる。1000人のオーディションから選ばれた新人17歳のアマンダ・バインズの高音の澄んだ歌声は勿論素晴らしいが、トラボルタを始め脇のミシェル・ファイファーやクリストファー・ウォーケンまでが歌うのには驚かされる。決して口パクじゃない芸達者な俳優陣だ。
生き残りを賭けて、ヒットに繋がるような映画とミュージカルの相互乗り入れはこれからも益々盛んになりそうだ。