昨年来の韓国映画の不振は目に余る。製作本数も観客数も激減したのを受けて映画人たちが7月末に記者会見を開き、反省と改善を宣言している。「これまで商業的成功と国際的評価へ安住し、一時的成功を持続的な流れに繋げることに失敗した」「初心に戻り危機をチャンスへと転換する努力をする」要するに慢心し日本の観客を侮ったツケが廻って来たということだ。なにしろ日本は韓国映画の8割を占める輸入国だから。
この作品はその反省を生かしたように内容と質で勝負をしている。ホストまがいの俳優は顔を見せず、ワンパターンで主人公が不治の病で死ぬ展開でもない。近所の悪ガキがピアニストとして大成する話だ。ピアノ教室は何処でも見受けられるから映画にもすんなり入れる。ソウル郊外の居住区でのマンション一室の教室が舞台となる。
ピアノ教室を開いている教師キム・ジス(オム・ジョンファ)。海外留学を夢見ていたが家が貧しく実現しない。それでもコンサート・ピアニストを目指していたが、コンテストに次々と落ちて、同僚の出世を横目に見ながら鬱々とピアノを教えている。新しく教室を開いた日、近くに住む7歳の悪ガキ・キョンミン(シン・ウィン)が部屋に侵入し、メトロノームを奪い逃げる。両親を交通事故で亡くし祖母に育てられている少年はトラウマを抱き情緒不安定なのだ。
ところがキョンミンをピアノの前に座らせてみると「絶対音感」の持ち主だと判明する。ジスに昔の野心が戻って来る。少年をコンクールで優勝させピアノ教師としての名声を獲得し、成功している同僚たちの鼻をあかそうと。両親を亡くした天才少年と野心破れたピアノ教師との母子のような感情。栄光の道を歩むなら、諦めなければならない二人の繋がりや絆など、巧みな展開に涙腺はいつしか緩んでくる。成長したキョンミンがジスに捧げる「有難う」の言葉に涙がこぼれる。
キョンミンを演じるシン・ウィジェのピアノが凄い。7歳でコンクール一位の実績をもつ。ベートーベンの「皇帝」やドビュッシーの「2つのアラベスク」などのピアノ曲でびっくりさせられる。ジス役のオム・ジョンファは30台半ばでアイドルではないが愛くるしい笑顔が映える。監督のクォン・ヒョンジュンは長い助監督時代を経てこの作品が初監督。力がある人だけに次回作が楽しみだ。
2006年韓国映画、シネカノン配給、1時間48分
監督:クォン・ヒョンジク
出演:オム・ジョンファ / シン・ウィジェ
公式サイト:http://www.mylittlepianist.com/