今年の熱闘甲子園は、まったく無名の佐賀北(佐賀)が強豪の広陵(広島)を下して日本一になった。それも、劇的な逆転満塁ホームランつきだ。「これぞ甲子園、これが高校野球」と元野球少年のレポーター田中大貴が絶賛するわけは‥‥。
田中はまず、「25/49」という数字を出した。出場49校中、この春の特待生問題で違反にあたる学校が25。佐賀北は特待生ゼロの進学校、普通の県立高校だ。選手は全員地元出身。それも軟式経験の子ばかりだった。
過去2年の大会では、地区予選の初戦で敗退している。その同じ野球部が、どうやってここまで来たのか。その道のりは半端じゃない。
2回戦では宇治山田商(三重)を引き分け再試合の末に破り、準々決勝では帝京(東京)に延長13回サヨナラ勝ち。甲子園で73イニングという最多記録を作った。昨年「ハンカチ王子」の早実が決勝戦引き分け再試合でつくった69イニングを破ったのだ。
田中が訪れた佐賀北高の様子も、いつも登場する野球の名門校とはがらり違う。グラウンドはサッカー部と共用。1日の練習は3時間。夜間照明も隅のほうに3つだけ。ストライクやアウトの数を表示する打者のカウンターはでかいと思ったら、お古の交通信号機の再利用だった。
年間の予算は60万円で、甲子園出場で経費がふくらみ、担当の教諭は「いくら請求がくるか、恐い」と笑う。選手も監督も地元も、だれも優勝するなんて思わず。地元のテレビも、予選段階での同高をまったく取材していなかったので、映像ゼロ。だいいち学校のパンフレットにも野球部のことが出ていない。
それが勝った。満塁ホームラン、優勝の瞬間を、佐賀市内のショッピングモールや同高の同窓会館で見守っていた人たちが躍り上がるさまが流れる。
「わかりやすくていいなぁ」と、スタジオも大喜びだ。
同高は97%の子が進学するが、野球部員でも大学で野球ができると思っていた者がおらず、今回の優勝で、やっと「大学で野球ができるかも」というところだという。
選手たちは今日(8月23日)佐賀に凱旋する。が、25日には一斉模擬試験がまっているのだと。「飛行機の中で勉強しながら帰ってくる」と田中。
小倉が喜んだ。「試験で大学へ入って、野球部へいって、『甲子園で優勝したんですけど』っていうんだ」。「かっこいい」(眞鍋かをり)とみんなも喜んだ。
暑さを吹き飛ばす清々しい話だった。