「純愛」
終戦直後の満州 「残留」日本人女性の苦楽を描く

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   小林桂子と言う30台後半の女性。引田天功に似て、年は感じるが楚々とした容貌だ。名前は初めて聞く。彼女が8年前から企画し、脚本を書き、製作をし、主演も務めたのがこの映画「純愛」。ボランティアが呼びかけて市民から金を集め、8年かけて一億円の製作費を積み上げた。


   戦争直後の1945年、中国・満州が舞台。日本へ帰るためハルピンを目指す満州開拓団の仲間たち。途中出会った敗残の日本兵たちは目が吊りあがり、狂気のように最後まで戦うのだと叫び、開拓団を脅して食料を奪う。中国人たちは戦争中に虐待されたので、日本人と見れば目の敵き。開拓団とはぐれた愛(小林桂子)は夫・俊介(YASUTAKA)とともに山村に迷い込む。盲目の老女(ポン・ボー)が二人を憐れんで納屋に泊めようとするが、息子・山龍(チャン・シャオホワ)は憎い日本人を匿うことに猛反対。父を日本兵に殺され、泣き通した母が失明したからだ。

   老女の説得で愛たちは一緒に住むことになるが、村人たちに見つかり、リンチにあいそうになる。俊介の姉と偽る愛の産婆の技術は村で重宝され始めるが、日本へ帰国の夢は捨て難い。村の外れを通る汽車に飛び乗ろうとするが失敗し、よじ登った俊介だけが遠ざかる。しかし国民軍の銃声が聞こえて・・・。

   小林桂子が残留日本人の女性から聞いたという実話に基づく脚本だから、説得力がある。主演の小林も老女や息子役の中国人俳優も、何れも初めて聞く名前だが、熱演していてじっくり見せる。ただ何でタイトルが「純愛」なのか分からない。愛が山龍に身を任せるのが純愛なのだろうか? 夫の俊介を思い切って山龍に心を切り替え、風呂場に彼を呼び込む重要なシーンが暗示で終わってしまい、しっかりと描かれていないのは残念だ。だが総じて感動的な良い出来栄え。

   中国の監督のジャン・チンミンの演出が優れている。省略がうまく、描き方も淡々としてくどくない。恐らく彼の監督デビュー作であろうが、感情が行き交う様を役者の表情でしっかり描いている。小林桂子の本業は代官山に美容院を経営するエスティシャンだそうだ。中国の舞台やTVに出た経験もあるらしく、中国語のセリフは堪能だ。このような草の根的な努力で映画が誕生するのは喜ばしい。8年待望の映画が、いよいよ8月18日から銀座のシネパトスで公開される。

恵介
★★★☆☆
純愛
2007年日本映画、プロジェクト・デザイン配給、1時間55分、2007年8月18日公開
監督:ジャン・チンミン
出演:小林桂子 / チャン・チャオホワ / ポン・ボー
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