「遠くの空に消えた」
空港建設でゆれる村「史上最大のいたずら」は成功するか?

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   8月12日のコラムでもオリジナル脚本と原作の脚色台本の違いを論じた。監督は誰でも自分のオリジナル脚本で監督をするのが最高だと考える。青山真治は脚本を映画にし、その上に小説にまで仕上げている。「EUREKAユリイカ」では三島由紀夫賞を受賞した。今秋公開の「サッド・ヴァケイション」は、映画も小説もなかなかのものだ。

(C)2007 遠空PARTNERS
(C)2007 遠空PARTNERS

   この作品の監督、行定勲も同じ考えだ。社会現象を巻き起こした「世界の中心で、愛をさけぶ」にしても、三島由紀夫の「春の雪」にしても自分の映画だとは感じていない。TV局主導の原作ものやコミックの映画化、純愛路線ばかりで、邦画は危機を迎えていると述べている。台湾のホウ・シャオシェンや韓国のキム・ギドクからも何故オリジナルをやらないのだと言われていた、と。だからこの映画では、2000年に撮った「ひまわり」などと同じオリジナル脚本で臨み、原点帰りを実現させた。

   脚本は7年前に書いたそうだ。その時には主役を張る神木隆之介も大後寿々花もいなかった。だが今や彼らは声変わりをしたし、大人に成りかけている。だからこの時期にこそ撮らなければならないと脚本を改めて見直し、クランクインをした。

   高層ビルなどは無く、どこまでも続く青い麦畑、のんびりと時間が過ぎ行く田舎の馬酔村。この平和な村は空港建設の是非で真っ二つに分かれて争っている。高級車に乗ってやって来たのは、建設計画の責任者に着任した楠木雄一郎(三浦友和)とその息子、亮介(神木)。都会的な亮介は、転校した学校でたちまち女子の人気をさらう。

   面白くない地元のガキ大将、公平(ささの友間)は決闘を申し込むが、共に牛の肥溜めに落っこちてクサイ引き分け。さらに二人は、空に向かって呪文を唱える少女、ヒハル(大後)に出会う。父親探しで「UFOの存在を信じる」のだ。意気投合した子供たちはヒハルのため、空港予定地の麦畑にたった一晩で「史上最大のいたずら」を仕掛ける。

   空港建設の是非を巡る大人たちのいざこざ、子供たちだけで何が出来るかのはかりごとと冒険など、延々と物語は続く。行定監督のオリジナル脚本論には賛成するが、この作品に限って言えば台本の出来は良くない。社会的に空港建設反対のムーブメントも一段落して身近に感じないこともあるが、双方の大人たちが類型的で、動きが観客に予想され分かってしまう。子供たちの冒険譚にしても見張りに見つかるなどのハラハラさせるシーンが少なく物足りない。こんな調子で2時間半という長さだけが気になる。

恵介
遠くの空に消えた
2007年日本映画、ギャガ・コミュニケーションズ配給、2時間24分、2007年8月18日公開
監督・脚本:行定勲
出演:神木隆之介 / 大後寿々花 / 三浦友和
公式サイト:http://to-ku.gyao.jp/
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