映画は台本!同じ原作者でも「脚色」しだいで天地の差

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   映画の出来不出来は、80%は台本にかかっている。撮影に入る前に台本が完成した段階で映画の運命は決まる。演出を任せた監督が阿呆だったり、主演を張る役者が大根だったりする可能性も20%位残っているのだが。

(C)2007「犯人に告ぐ」製作委員会
(C)2007「犯人に告ぐ」製作委員会

   その台本もオリジナルの脚本と、小説などの原作があって脚色したホンの2種類がある。アカデミー賞でははっきりとOriginal Screenplay(脚本)とAdapted Screenplay(脚色)と分かれる。今年はオリジナルでは「バベル」「硫黄島からの手紙」「リトル・ミス・サンシャイン」「クィーン」などがレベルの高い争いをして、「リトル~」に決まった。脚色はリメイクも含まれる。香港映画「インファナル・アフェア」を元種にした「ディパーテッド」が脚色賞の栄誉を受けた。邦画も洋画も圧倒的にこの脚色が多い。

   最近の邦画でも脚色が驚くほど優れた作品がある。雫井脩介原作の「犯人に告ぐ」だ。脚色は福田靖。彼の「海猿」シリーズや「HERO」などは稚拙で噴飯ものだが、この脚色は原作を適切に省略し、一人の人物に数人のキャラクターを併せ、ストーリーのエッセンスを際立たせている。

   主人公は幼児誘拐事件で捜査に失敗したトラウマを持つ巻島警視(豊川悦司)。6年後に連続児童殺害事件に借り出され、TVを利用して犯人に直接呼びかける劇場型捜査という新手法に挑む。巻島のキャラクターを原作よりも更に挑戦的にし、昔の女に言い寄るために捜査を利用する上司の植草(小澤征悦)をもっとあくどくする。巻島はノンキャリアの叩き上げ警視だが、植草は東大卒のキャリアで父親は前警視総監の毛並みを誇る年若の上司という立場は原作と少し違う。極端にして善悪を明確に見せる見事な手法だ。

   一般に脚色は原作の偉大さに圧倒され、映画の文法も分からぬままストーリーをただなぞって長大になり駄作になる例が多い。高村薫の「マークスの山」、宮部みゆきの「模倣犯」、これから公開の馳星周の「M」などなど。原作負けだった。

   雫井脩介の原作ではもう1本、新作がある。東宝映画で9月公開の「クローズド・ノート」。これはがらりと変わって女子大生・香恵(沢尻エリカ)が主人公の、推理要素も含めた純愛映画。香恵が引越したアパートで見つけた伊吹(竹内結子)という小学校の先生が残した日記。記されているのは教え子の小学生との交流と大学同期の隆への思慕。一方の香恵はアルバイトで知り合った画家・リュウ(伊勢谷友介)へ恋心を寄せる。時代を隔ててパラレルで進む物語は段々核心に触れて来る。同じ雫井の小説だが、脚色が全然違う。吉田智子、伊藤ちひろに監督の行定勲の3人のホンだ。原作に忠実過ぎて省略を忘れている。例えば香恵の引越しを手伝う親友ハナなんて要らない。留学で居なくなるし、その男友達が後で香恵にちょっかいを出すだけの役で本筋に関係が無い。2時間半の長尺は飽きが来るから、削ったら丁度良くなる筈。ハナ役のサエコはダルビッシュの子供を妊娠して映画には当分出ないので、話題のため敢えて付け足したのか?

   同じ原作者の二つの映画は、「犯人に告ぐ」の方がホンのお陰で断然優れているが、小さな配給会社の悲しさ、東宝映画「クローズド・ノート」は公開する劇場数に恵まれてヒットするだろう。

恵介