「キル・ビル」や「ワイルド・スピード3 東京ドリフト」などハリウッド映画に顔を出しているものの、日本映画にはとんとご無沙汰で、引退かとも伝えられている千葉真一。今年68歳、未だ年齢的には何でも出来る歳だと思っていたら、日本映画「親父」で監督と主演をしている。
(C)2006もりやまつる/小学館/チェイスフィルム
広い土地で数人の東南アジア人を使って鍛冶屋を営む竜道(千葉)。その「親父」を中心として沼田一家は幸せ家族だった。だが15年前、地上げを狙ったヤクザの放火で家を焼かれる。怒り狂って報復のため、唯一人ヤクザ事務所に殴りこみをかけた竜道は全員を叩きのめすが、自分も刺されて息を引き取る。今や母と娘と息子の三人暮らし。母(田中好子)は内職で細々と家計を支え、長女洋子(北川弘美)はヤクザと一緒になるが家庭内暴力で家へ逃げ帰る。長男伸吾(斉藤慶太)はボクシングジムに通うものの、やる気はなくヤクの売人の下請けで小突き回されている。惨めな一家のどん底の日々。お盆の入りの夜、突然「親父」は戻って来る。
製作費が少ないのだろう。ライティングもセットもお粗末でチープな感じだ。死んだ筈の竜道がお盆の入りに現れた瞬間、「いつものパターン」と殆どの観客は気付く。あの世から戻って来て救いの手を差し出す物語は無数にあり、古くは「天国から来たチャンピオン」、近くは「椿山課長の7日間」などなど。だが分かっていても、生きている人間に無い能力を持っているだけに面白い。ストーリーは予想通り進行する。
短く切った髪に精悍な顔、日に焼けた肌、がっしりした体躯、千葉真一はさすがに貫禄がある。高倉健よりも8歳も若いのだからドンドン活躍して欲しいものだ。短い出番だがヤクザの会長として登場する小説家・筒井康隆が子分を一喝し、威風堂々に場を締める。噛み切った小指を見て「久しぶりに男を見た。早く車を回せ。直ぐ病院へ行けば付くだろう」のセリフも笑わせる。夫を尊敬する妻役の田中好子も悪くない。
原作はもりやまつるのコミックだが、評判になっただけに見ごたえがある作品だ。しかし上映は渋谷の小さい小屋(Q-AXシネマ)で、それもレイトショーだけと言うのは淋しい。ヒットして全国公開にして貰いたいものだ。
2006年日本映画、チェイスフィルム・エンタテインメント、1時間48分、2007年8月25日公開
監督:千葉真一、井出良英
出演:千葉真一 / 田中好子