昨年、邦画が洋画の興行収入を逆転した。フジテレビのプロデューサー亀山千広さんといえばその功労者だが、それ故に「日本映画の危機」を招いている張本人だと、このコラムで以前に書いた。
(C)2007 フジテレビジョン・東宝・J-dream・FNS27社
TVでヒットしただけのものをその勢いのままに同じ監督・脚本・俳優で映画に持ち込むイージーさが映画の質の低下を招く。TV局の無料PRやTVスポットをガンガン流すので、観客は確かに劇場へ足を運ぶ。ところがその質の悪さ。TVと違い「ながら視聴」でなく、暗闇での「真剣視聴」だからアラも過失も粗忽も露わになり、「映画って本当に詰まらないもの」と2度と小屋へ行かなくなる。
その典型的な例がこの「西遊記」だろう。昨年の頭からスタートした同名の番組は毎回視聴率20%を超え、最終回は29.2%を記録したという。だから亀山氏はディレクターの澤田鎌作を映画の経験が無いのに監督に指名し、主演の香取慎吾、内村光良、伊藤淳史、深津絵里をそのままスクリーンに乗せる。更にカンヌで製作発表の記者会見と派手なPRをやってのけた。
TVでの6話と7話の間に封印されていたエピソードがこの映画の内容となっている。中国・銀川のスペクタクルな西夏王陵やゴビの砂漠でロケを張り、日本に戻っては巨大な豪華セット、先端のCGをふんだんに使って不可思議な画面を展開させている。だけどTVの延長でしか無いのだよなあー。
3人の従者が砂漠をタラタラ行くところから映画は始まる。驚いたことに三蔵法師はトレードマークの白い馬に乗っていないし、孫悟空は如意棒を手に持っている。あれは普通耳の中に隠すだろう。筋斗雲にもなかなか乗らないし、おどろおどろした妖術も余り使わない。主演でスポットが当たるのは香取の孫悟空だけ。
それにしても香取は背が高い。孫悟空は猿だから、前回の堺正章のように小さい役者の方が良いのでは?でも香取で客を呼ぶのだからしょうがないのですかね。深津の三蔵法師は「おやめなさい!」と孫悟空たちの仲間内の喧嘩を止めるだけ。巨大な丸い石が4人を襲う唯一のハラハラ場面はハリソン・フォードの「インディ・ジョーンズ」で見た有名なシーンだ。
金角、銀角との戦いや、何でも吸い込む瓢箪などは原典にあって誰でも知っている筋書きだが、それ以上に発展していない。もっと妖術を使い、もっと妖怪が出て孫悟空以外にも、悟浄や八戒ももっと活躍して良いだろう。ともかく孫悟空だけが派手なアクションを繰り返すが、香取はうまい役者では無いので演技にも飽きてしまう。
7月の夏休み目玉映画のようだが、こんな映画がヒットするようでは、日本映画の将来は覚束ない。
監督:澤田鎌作
出演:香取慎吾 / 内村光良 / 深津絵里
公式サイト:http://www.saiyuki.jp/index.html