日本人はマルチェロ・マストロヤンニが好きだった。大きな瞳に男のくせに長い睫毛。じーっと見つめられると女性はイチコロ。世界中の女性に愛されたラテン男「世界のラテンラバー」の別称がある。イタリア映画は今では見る影も無いが、イタリア映画の全盛期のスターだ。1924年生まれ、すい臓がんで1996年12月19日に72歳で死ぬまでに160本余りの作品に出演した。
1950年代から70年代にかけてイタリア映画はドンドン日本に入って来て、どれもヒットした。たとえば63年のデ・シーカ監督の「昨日・今日・明日」。マルチェロとソフィア・ローレンのコミカルなシーンを取り入れたCMも作られ、日本の映画タイアップ広告第一弾となったのも懐かしい。
この「マルチェロ・マストロヤンニ 甘い追憶」は、マルチェロ没後10周年を記念して2006年カンヌ国際映画祭で上映された。未公開の本人へのインタビュー白黒映像のほか、二人の娘バルバラとキアラや彼と仕事をした映画人とのインタビューに映画のクリッピングを織り交ぜて構成されている。
マストロヤンニは1948年フレーダ監督の「レ・ミゼラブル」で映画に本格デビューした後は順風満帆。この人にスランプは無い。特にフェリーニの大作「甘い生活」でローマの上流階級のデカダンな生活に侵されて行くジャーナリスト志望の若者を演じてから、引っ張りだこになる。マストロヤンニの代表作と言えばこのタイトルが示すように「甘い生活」だと思う。
スクリーンの上の恋人でパートナーだったのはソフィア・ローレン。54年の「こんなに悪い女とは」以来、「昨日・今日・明日」「あゝ結婚」「ひまわり」など10本で共演している。しかしソフィアは結婚しており、ロマンスは映画の中のみだった。
マルチェロは「僕がモテると言うのは作り話で、現実ではない」とカメラに向かって話す。すっかりおばあちゃんになったクラウディア・カルディナーレが「私は、本当はマルチェロが大好きだった」と告白していて、モテるのがばれる。実際このモテ男は、68年デ・シーカの「恋人たちの場所」で共演したフェイ・ダナウェイとの大ロマンスが世界を沸かし、71年トランティニャンの「哀しみの終わるとき」ではカトリーヌ・ドヌーブとの恋で娘が誕生する。それがキアラで、この映画で父親のことを語っている。同じく長女バルバラも多くのことを喋るが、本妻の娘と愛人の娘では環境が違う。マルチェロも同じ顔を見せていないことが判り、興味深い。
マルチェロと一緒に映画を作った監督や俳優たちのインタビューも楽しい。今は亡きF・フェリーニもL・ヴィスコンティ、P・ジェルミ、V・リージも、それから銀幕での相棒ソフィア・ローレンも、映像でマルチェロのことを語る。昔のイタリア映画ファンには堪らないドキュメンタリー映画だ。
2006年イタリア映画、クレストインターナショナル配給、1時間42分
監督:マリオ・カナーレ、アンナローザ・モッリ
出演:バルバラ・マストロヤンニ / キアラ・マストロヤンニ