サンフランシスコ・ジャイアンツの4番打者、黒人のバリー・ボンズは野球ファンで無くとも知っている人は多い。今年7月で43歳になる強打者が注目されているのは、ハンク・アーロンの持つ通算ホームラン記録755本にあと7本に迫り(6月22日現在)、本年中に記録の塗り替えが確実になって来たからだ。先日もレッドソックスの松坂が彼を抑えたことが大ニュースとなった。
2001年10月7日、ボンズはその年の最終試合でマーク・マグワイヤの70本を破り、年間最多となる73本目のホームランを放った。このドキュメンタリー映画は、そのときのホームランボールを巡る裁判沙汰の騒動を追った顛末記だ。1998年にマグワイヤが記録した70号のボールは、オークションで270万ドル(3.4億円)で落札された。だから73号ボールはどう低く見ても100万ドル(1.3億円)の価値がある。
その日、ジャイアンツのホームグラウンド、SFダウンタウンにあるパック・ベル・パークは熱気に包まれた。特に左バッターのボンズということで、右翼席最上段ではグラブを持った少年や大人たちの血走った眼。更に場外ホーマーも多いからと右翼席を超えた海上にはボールをすくう網を持った人が乗るヨットから、カヌー、ボートと無数の船が海を覆いつくす。SFと言えばITメッカで億万長者を輩出している地。それなのにこのアナログ的騒ぎは人間の物欲、あさましさを表している。
問題の73号ホームランは期待通り右翼最上段に打ち込まれる。どっと群がる子供に大人。人の山が出来上がる。その山の中から一人の日本人が這い出して来る。手にはホームランボールを握っている。パトリック・ハヤシというIT業界に勤める男だ。周囲の観客は羨ましがりながらも拍手を送る。ところが一人いちゃもんを付ける男が出る。そのボールは俺の物だと。俺がグラブで抑えたのに、その日本人が俺からもぎ取ったんだ。彼の名はアレックス・ポポフ。周りの人たちからの証言を得て益々自分のボールだと言い募る。
ここから長い裁判に突入するが、経過や結果を書くと興味が半減するから書かない。ただ打った張本人のボンズの「喧嘩なんかしないで、二人でお金を半分ずつ分ければいいのに」とのコメントが一番妥当なような気がする。
この作品はロサンゼルス映画祭やフェニックス映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞している。ホームランボールを取る瞬間は待機していたTVニュースの画像が鮮明に捕えているし、その後ポポフへの密着取材で自分のボールだと言い張るドラマティックな展開は盛り上がる。ハヤシの方は日本人的シャイでカメラの前に余り立たないが、ポポフとの当人同士の1対1の対決は見ものだ。
監督・プロデュース:マイケル・ウラノヴィックス
出演:アレックス・ポポフ / パトリック・ハヤシ
公式サイト:http://www.homerunball.jp