「サイドカーに犬」
竹内結子、謎の女性ヨーコを好演

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   長嶋有の芥川賞を取った原作「猛スピードで母は」を読んだときには涙が流れるほど印象深い小説だった。少女時代の思い出、ある日母が家を出て、父が連れて来た若い女性との交流。よそよそしい付き合いから親友になって行くまでの繋がりと感情の起伏が、見事な筆致で描かれている。長嶋有のもう一つの小説「サイドカーに犬」を繋ぎ合わせてこの映画の脚色を担当したのは田中晶子と真辺克彦という実力派の脚本家で、しっかりした本に仕上がっている。

(c)2007『サイドカーに犬』フィルムパートナーズ
(c)2007『サイドカーに犬』フィルムパートナーズ

   監督は根岸吉太郎。日活ロマンポルノ出身で57歳の根岸はこのところ「透光の樹」「雪に願うこと」と文芸物を取り続け好調だ。「遠雷」以来、数々の映画賞を受けている。主演は「いま、会いに行きます」でブレイクし、中村獅童と結婚した竹内結子。その獅童の浮気から生じた離婚問題でゴタゴタしているが、スクリーンでは吹っ切れて主人公ヨーコ役を好演している。相手の子役は10歳の松本花奈、可愛いねぇ。その父親役が太目の「花よりもなほ」の古田新太。家出する母親は「憑神」の鈴木砂羽。その他、脇に山本浩司、ミムラ、トミーズ雅、川村陽介、樹木希林など。

   不動産会社に勤める薫(ミムラ)は弟透(川村)の結婚式の招待状を受け取る。バラバラになった一家が久しぶりに集まることになるのだ。薫は自分が自転車に乗れるようになった小学4年生の頃、20年前の夏を思い出す。夏休みが始まる前日、薫(松本)が学校から帰ると、母親(鈴木)は丁寧に台所を掃除しながら父親の悪口を言っていた。「会社辞めて、あんな妙な仕事を始めて。あんた大きくなったら結婚なんてしなくて良いから手に職をつけなさい」翌日母は家を出る。数日後呼び鈴も鳴らさずに知らない女性が「オッス」と入って来て煙草を吸い、冷蔵庫を開ける。ヨーコさん(竹内)だった。「そんなに驚かなくてもいいわよ。ご飯を作りに来ただけだから」

   ヨーコさんと買い物に付き合う薫にとっては新しい体験だらけ。母なら禁止した麦チョコを一杯カートに放り込むし、カレーを食べた後の皿に麦チョコを入れて「ほら、エサだよ」と差し出す。父が友達を集めて毎日麻雀に明け暮れていると、その傍でタバコを吹かすヨーコさん。「自転車に乗れるようになると世界が変わるよ」と言って公園に連れ出し熱心に自転車に乗るコツを教えてくれるヨーコさん。薫の思い出に自転車に乗れるようになった夏が思い出されるのもこのためだ。「犬を飼うのと、自分が飼われるのとどっちがいい?」とヨーコさん。前に見たサイドカーに乗ったカッコ良い犬を見た薫は「あんな犬だったら良い」と。これが映画のタイトルに。父との間に別れ話が起き、父がヨーコさんに手切れ金として渡した当り馬券の22万9600円を持って伊豆へ出かける二人の旅行も楽しい。民宿の樹木希林のよぼよぼ婆さんがお茶を転げながら出す一発芸に大笑いする。

   結婚式で弟の透が父の愛人の話を持ち出す。「ヨーコさんの住んでいた家はコインパーキングになっているよ」と。遠い少女時代の酸っぱくて辛くて甘い話に引き込まれ、観客はいつしかたっぷり感情移入をしています。

恵介
★★★★☆
サイドカーに犬
2007年日本映画、ビターズ・エンド/CDC配給、1時間34分、2007年6月23日公開
監督:根岸吉太郎
出演:竹内結子 / 古田新太 / 松本花奈
公式サイト:http://www.sidecar-movie.jp/
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