私たちは「負け犬」でも「勝ち犬」でもない(玉蘭)

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   土曜日の夜。たまにはゆっくり2時間ドラマもいい。これは桐野夏生原作、とても力が入ったドラマだ。タイトルの「玉蘭」というのは、人名かと思ったらヒロインが部屋に飾る花の名前なのね。

   現在と80年前の上海・広東の街の姿を見るだけでも興味深い。特に昔の街並みを再現したシーンでは、雑踏を行き交う人々の国際都市らしい多様なファッションまで、しっかり作り込まれている。

   ヒロインは編集者の広野有子(常磐貴子)。仕事にも恋愛にも行き詰まった(と自分で思い込んだ)有子は会社を辞めて上海へ語学留学。まあ、現実逃避ですね。

   留学生仲間の生態が辛口に描かれているのが桐野夏生らしい。また、盛り場で留学生が反日の若者たちに殴られるシーンもちゃんと入っている。

   有子は東京や恋愛を「戦場」だと思っている。私、カモノは東京近郊という微妙な出身。だから、地方から出てきて一人で頑張っている人のこういう思いは、分かるようでもあり、分からないようでもある。

   でも、チカラ入れすぎじゃない? このアタシは仕事では成功し、恋愛では幸せになるべき人間だ、勝つんだ、じゃなきゃ自分を許せない、って思ってるでしょ。

   向上心があって自己期待値が高いことは時に必要かもしれない。だけど、現実の能力やチャンスには限りがあるからね。

   「私の気持ちなんて、あなたには分からないのよ」って言われても、恋人の医師、松村(筒井道隆)だって困っちゃうのが当たり前。私ならあんな優しい恋人がいるだけで幸せだと思うけどな…。

   有子は言う。「私は東京戦争にも負け、恋愛戦争にも負けたのよ!」

   「負けイヌ」、「勝ちイヌ」なんて言葉が流行ったっけ。でもね、有子ちゃん。私たちは犬じゃない。誰かにけしかけられて闘う闘犬なんかじゃないんだから。

   この現代の、ハリネズミのように自意識の鎧を着たヒロインの恋愛と対比させるべく、船乗りだった伯父(長嶋一茂)とカフェの女、浪子(浅野温子)の戦前の恋愛が描かれる。 戦雲せまる広東と上海を舞台に、熱い「命がけの恋」…のはずだが、一茂・浅野には気の毒ながら、カラ回り気味。

   最後に有子の顔は明るくなり、幸せな方向を暗示する。しかし、一気にハッピーになれるほど甘くはないだろう。厄年の年頃の女には、他人にはどう見えようと、自分で囚われているつらい現実こそがリアルだからだ。

文   カモノ・ハシ
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