日曜コラム:中国映画の「真髄」に触れる7週間がやってくる

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国威発揚映画「鄧小平」 日本人が見ても嫌味なし

   シリーズで上映予定の「鄧小平」を見た。監督は勿論、北京電影学院監督科卒業のティン・インナン。映画は多分に国威発揚作品で大ドッコイショ大会だったが、彼の偉業を知っている筆者にはスンナリと入れた。3度も失脚しても常に帰り咲き、中国国民を頑迷な「左」思想から脱却させ、「改革開放」へと導く中心人物だった。西洋の伝記ものなら、人柄、人格、人間性、家庭などを描くが、一切なし。彼の中国共産党内での足取りを忠実に追うだけ。だから人間ドラマでは無くて、毛沢東以降の中国の進歩発展を記述する教科書だ。中国人民を集めて見せる教育映画かも知れないが、外国では市場はないだろう。しかし映画の出来は悪くない。

   鄧小平は、毛沢東がバックアップする江青など4人組の愚行「文化大革命」で中国が過去に逆行した歴史に触れても毛を批判しない。彼の「中国人民」に尽くす精神があったから、今の中国があるのだと礼賛しきり。香港返還条件について訪中したサッチャー首相に対して、自説「一国二制度」を厳しい口調で譲らない。日本には優しく、松下幸之助には技術面での援助を依頼しているし、訪日して乗った新幹線も褒め称えている。

   イギリス映画「クィーン」のようにソックリさんは使わない。サッチャーも松下も似ても似つかない。主人公の鄧小平を演じる役者はこれまでずっと鄧小平を演じて来たと言う。雰囲気はあるが、あんなに背は低くない。鄧小平が念願の香港返還の半年前に逝去するところで映画は終わる。国威発揚映画にしては外国人が見ても嫌味は無いし、脚本もカメラも基礎が出来ている。

   ここまで書いたところで、もう一本素晴らしい中国映画「幸せの絆」(原題:暖春)を見た。孤児の女の子を慈しむ貧しい村の人々の心暖まる話で、クールな筆者でも全編泣き通す映画だ。ここに登場する中国人って、日本人に石を投げ領事館を襲う中国人と同じ人種かと考え込む。本来ならこの作品をコラムで紹介すべきだが、「全貌」シリーズには関係無い公開なので稿を改めて紹介したい。

恵介