「アポカリプト」
古代マヤ「人間狩り」の恐怖 一瞬たりとも目が離せない

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   メル・ギブソンは偉大な映画人だ。オーストラリア出身の俳優として「マッドマックス」シリーズで世界的ヒットを飛ばしたあとハリウッドへ渡り、大輪の花が開く。「リーサル・ウェポン」シリーズで大スターの地位を獲得してからが凄い。自分の「アイコン」プロダクションを設立してメジャーなスタジオに振り回されない。世間でも見捨てられた主題を取り上げ、自分の好きな映画の監督や製作を始める。

(c)Icon Distribution, Inc., All rights reserved  Photo :Andrew Cooper, SMPSP
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   最初に注目されたのが95年。先祖スコットランド人の英国反攻の映画「ブレイブハート」で、監督賞や作品賞を含むアカデミー賞を5部門で獲得。歴史ものは駄目だとの世評を覆す。04年には、敬虔なカトリック教徒として(反ユダヤ的な発言は昨今問題となっているが)キリストの生涯を描く「パッション」を監督。キリストを扱う作品はハリウッドでは何度も描かれて古い、という批判や危惧を跳ね除け、見事世界的に750億円にも上る大ヒットとなる。そして本作「アポカリプト」では、メキシコ、中央アメリカに紀元前から15世紀まで栄えたマヤ文明の後期にジャングルで暮らすマヤ民族を描き、監督、製作、共同脚本をやってのけた。

セリフはマヤ語で英語の字幕(日本語字幕)。有名俳優は誰も出ず、全員がネイティブ・

   アメリカンの素人のみ。しかも2時間を遥かに超す長尺と来る。いくらギブソンさんでもこれは寝てしまうぜ、と映画を見始めるが、どうしてどうしてハラハラドキドキで寝る暇なぞありはしない。

   ジャガー・パウ(ルディ・ヤングブラッド)は狩人。楽園のジャングルで部族長の父スカイ(M・バード)指揮の狩に勤しみ、妊娠中の妻セブン(ダリア・ヘルナンデス)と息子タートル・ラン(K・E・バエズ)と平和な生活を楽しんでいた。そんな幸せな村が突然、都会から来た傭兵たちに襲われる。ジャガー・パウの村は焼き討ちに遭い、父は目の前で殺され、仲間たちとジャングルから連れ出され、遠い道を街へ連れて行かれる。村の女たちは奴隷として売られ、男たちは旱魃(かんばつ)を鎮める儀式のために生贄(いけにえ)となる。ピラミッド神殿の頂上で次々と身体を青く塗られ頭を切り落とされ、心臓を掴み取られる。しかしジャガー・パウの番になった時に日食が起こり、儀式は中止される。

   儀式の代わりに「人間狩り」の遊びが始まる。逃げるジャガー・パウたちは人間標的になって無数に放たれる矢に逃げ惑う。ジャガー・パウは一人、1本の矢に脇腹を射抜かれたまま、憎きスネーク・インク(R・パラシオウス)を倒し、ジャングルに逃げ込む。その逃げ方の機敏で機智に富んだ様々な方法が痛快なのだ。目指すは故郷の村。隠した妻子を助けるために逃げる、走るジャガー・パウ。追うのは残忍な傭兵隊長ゼロ・ウルフ(R・トルヒーヨ)、愛する息子スネーク・インクを殺された恨みもある。

   この時代の戦いで、矢で射抜かれて死ぬのはまだ良い。棍棒で頭を叩き割られ、短刀で腹を抉られて心臓を取り出され、頭を首からスパッと切り落とされる。次々と見せられる残酷シーンは目を覆いたくなる。マヤの話の映画化は珍しく、目新しくて恐ろしい。主人公ジャガー・パウの生き延びて逃げる目的が、井戸の底に隠した妊娠中の妻と幼子を助けること。家族への愛情が、恐ろしい敵の追跡を振り切る原動力だ。長い映画だが一瞬も飽きることが無い。

恵介
★★★★☆
アポカリプト(APOCALYPTO)
2006年アメリカ映画・東宝東和配給・2時間18分・2007年6月9日公開
監督・脚本:メル・ギブソン
出演:ルディ・ヤングブラッド / ダリア・ヘルナンデス / ジョナサン・ブリューワー
公式サイト:http://www.apocalypto.jp/
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