「眉山」
母の想い知り父を探す娘、松嶋菜々子が好演

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   さだまさしと言えば「秋桜」や「関白宣言」など国民的ヒットソングのシンガーソングライターとして知られている。音楽だけでなく小説でも異能ぶりを発揮する。「精霊ながし」や「解夏」は読者に好感をもって受け入れられ、その映画化も深い感銘を与えた。さだの映画化3作目がこの「眉山」。10万部を超えるベストセラーの映画化だ。母の本当の想いを知ることで大切なものを悟り、自身も成長して行く娘の姿を描いている。クライマックスの阿波踊りの熱狂の夜に父を巻き込む一家のリユニオンは盛り上がる。


(C)2007「眉山」製作委員会

   監督はTVCM出身の犬童一心。「ジョゼと虎と魚たち」で注目され、「いぬのえいが」は名実ともにぴったりの作品だった。主人公咲子に、昨年の「犬神家の一族」で出産後6年ぶりに映画に戻り活躍を再開した松嶋菜々子。相手役に「解夏」にも主演の大沢たかお。嬉しいのはご主人の伊丹十三の自裁以来10年振りの出演になる母役の宮本信子。徳島訛りの中で唯一人江戸弁を喋る儲け役で、役にハマっている。他に円城寺あや、山田辰夫、黒瀬真奈美、永島敏行、金子賢、本田博太郎、夏八木勲たち。

   東京の旅行代理店でバリバリ働く咲子(松嶋)は徳島で病に倒れた母・龍子(宮本)の看病のため帰郷する。帰ってみると咲子の驚くことばかり。龍子は咲子に何の相談も無く経営していた居酒屋をたたみ、ケアホームに入所し、あまつさえ死亡時には献体することも決めていた。担当医からは末期癌で寿命も幾ばくも無いと知らされ愕然とする咲子。母の言葉から死んだと思っていた父親が生存することを知り、会いたいと思う。そんな折患者に無神経な言葉を吐いた医師の寺澤(大沢)が二人に真摯に謝り、和解する。寺澤と咲子の間にはロマンスが生まれる。

   居酒屋時代の龍子が酒癖の悪い客を追い払う場面、宮本の江戸っ子らしい啖呵が歯切れ良く迫力がある。一人、芝居のうまい俳優が居ると画面が途端に締まる。龍子は今で言うシングルマザー。「大好きな人の子供だからお前を産んだが、もうお父さんは死んだ」を信じていた咲子。だが実際は生きていたことが分かり、咲子の父親探しでドラマは盛り上がる。母が大切に仕舞っていた、彼女と知らない男性が眉山をバックに撮った36年前の古い写真が手がかり。

   母と父の切ないロマンス。松嶋もしっかりした演技で父母への複雑な感情を演じている。それにしても犬童監督の画面作りには感嘆する。画面の隅々にもエキストラのちょっとした動きにも神経を配っている。死期間近の龍子に阿波踊りを見せようと、病院から寺澤が付き添い、咲子の押す車椅子に乗って会場に向かう団欒のシーンは2分近い長廻しに万感の思いが込められている。

   最近の映画は手持ちカメラが流行しているが、画面が揺れるので気持ちが悪くなる。CM出身だけにレール上にカメラを載せて、ぶれないきっちりしたシーンを撮っている。果たしてこの喧騒の会場で咲子が企んだ父と母との再会が果たせるのだろうか?

恵介
★★★☆☆
眉山
2007年日本映画・東宝配給・2時間00分・2007年5月12日公開
監督:犬童一心
出演:松嶋奈々子 / 大沢たかお / 宮本信子
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