「俺は、君のためにこそ死ににいく」
知覧の「母」は見た、特攻隊員たちの哀しい最期

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   第二次大戦末期、若い特別攻撃隊隊員たちは米軍の日本本土上陸を阻止するため、250キロの爆弾を積み敵艦隊に体当たり攻撃をして貴い命を捨てた。特攻隊基地の鹿児島県川辺郡知覧の町で「特攻の母」と呼ばれる富屋食堂のおかみさん、トメさんが見守っていた。石原慎太郎は実在するトメさんの記憶を基に脚本を書き、この映画の製作を総指揮した。二度と帰らぬ隊員たちを自分から引き止めることもままならず、食堂に飲食に来たときは出来るだけのもてなしをして、ただじっと悲しい心で彼らを見送る毎日。彼女の視点から「死にに行く」特攻隊員たちの幾つもの哀しいエピソードを描く作品。

(C)2007「俺は、君のためにこそ死ににいく」製作委員会
(C)2007「俺は、君のためにこそ死ににいく」製作委員会

   「自分はホタルになってトメさんのところへ戻って来ます」と別れる河合軍曹(中村友也)。朝鮮人として特攻隊に志願し、最後の夜にトメさんに「アリラン」を絶唱して聞いて貰う金山少尉(前川泰之)。日本人の間で肩身の狭かった朝鮮人の身の上を、トメさん(岸恵子)の前ではカミングアウトして歌う金山少尉に涙する。同様に降旗康男監督で高倉健主演の「ホタル」と言う2001年の作品があった。トメさんが語り部だけに同じ話が出てきた。

   かつて知覧で飛行訓練を受けていた坂東少尉(窪塚洋介)は、出撃を控えて心配する家族に自分の出撃後に知らせて欲しいとトメさんに手紙を書いてもらう。田端少尉(筒井道隆)はトメさんの計らいで、食堂の座敷で婚約者、良子(戸田菜穂)と再会する。田端は「日本は負ける」と呟くが中西少尉(徳重聡)は臆病者と殴り倒す。その中西も空襲から救った一枝(中越典子)と恋仲になり、愛する人を守るため「死にに行く」ことこそ自分の使命だと確信する。出撃したがエンジン不調で戻った坂東は早く死んだ仲間の所へ行きたいと中西隊に編入される・・・。

   少尉以上の将校たちは大学生など20歳を超えているが、軍曹や伍長の下士官は未だ幼さが残る10代の少年。439名の若者が飛び立ち、二度と戻らなかった。彼らは靖国神社の鳥居を入った2本目の満開の桜の樹の下で全員で再び会おうと、互いに大声で約束して知覧基地を飛び立つ。

   映画のエンディングで生き残った中西に押して貰う車椅子で、トメさんは靖国と見まがう闇の桜並木を無数のホタルが飛び交うのを見る。脚本の石原慎太郎は、靖国神社はこのようにして国に命を捧げた若い軍神たちのものだと強調している。A級戦犯の合祀は如何なものか、との示唆が読み取れる。やや散漫な脚本で映画的には質も高くはないが、トメさんの体験した哀しい実話だけに2時間19分、ずーっと涙が頬を伝わる。

恵介
★★★☆☆
俺は、君のためにこそ死ににいく
2007年日本映画・東映配給・2時間19分・2007年5月12日公開(全国東映系ロードショー)
監督:新城卓
製作総指揮・脚本:石原慎太郎
主演:徳重聡 / 窪塚洋介 / 筒井道隆 / 岸惠子
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