3. 意気投合したアウラジの女

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タバンで身の上話を聞く

   ほかに客もいないので、店主はお尻を一振りして先生たちの席に割り込み、人恋しいのか、身の上話を始めた。父親は戦前日本に渡り、戦後故郷の釜山(プサン)に引きあげてきたが、事業に失敗した末死亡、自分は叔父を頼ってこんな山奥までやってきたものの、その叔父も亡くなって、すっかり身寄りを失い、生計のためにタバンを営んでいる……。女性の姓が同じ姜で、しかも釜山出身というのを知って、姜先生、いよいよ気に入る。

アウラジ止まりの鈍行列車
アウラジ止まりの鈍行列車

   そして、「ぼくは、こんど同人誌にアウラジのことを書きますよ」と宣言した。「きっと、『アウラジの女』という題名になるんでしょうね」と筆者が問うと、はははと笑う。同人誌というのは、先生が釜山で1993年以来出版し続けている日本語誌「みどりのかぜ」のことだ。日韓両国から評論や文芸作品の寄稿があり、2006年春には創刊20号を数えた。実は、山口先生も、毎号、自作の詩を寄せている。

   姜先生は新聞社を辞めたあと、日本語学校の教師になった。「文藝春秋」の記事を目で読みながら、同時に韓国語訳できる能力は、語学学校の経営者をびっくりさせ、初めはソウルで、のちに釜山に移って、計10年間教壇に立った。日本の大学へ入学できる最難関の検定1級に合格した教え子が30人以上。合格率も93%と驚異的だった。「みどりのかぜ」はそんな生徒たちが参加して発刊された。

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