今回の『プロフェッショナル 仕事の流儀』はトークスペシャルということで、以前登場した指揮者・大野和士と漫画家・浦沢直樹の未公開トークが放送された。
指揮者と漫画家――ぱっと思いつくイメージとしては"努力"よりも"才能"という言葉が先に思い浮かぶ。論理的な思考よりも、感覚を大切にする仕事だと思っていた。
もちろん努力なしで成り立つ職業なんてありえないことは分かっている。だが両者とも感覚やカリスマ性が重視される職業であることには間違いない。100人を超えるオーケストラのほんの些細なミスを指摘したり、誰も予測できないストーリーを作り上げていくことは、並の才能ではできないことだ。
しかし、番組での大野の言葉にはっとさせられた。キャスターの茂木健一郎が「指揮者はカリスマ性が必要な職業。そのカリスマ性はどのような所から出てくるのか」と問いかけたときに、大野はこう返した。
「カリスマ性は、自分が積み重ねてきた経験や体験とか、そういったものの集積の上に現れてくる性質のものだと思う」
才能は後から身につけることができるということだ。世間から"天才"と称される人でも、見えないところでそれだけの努力を積み重ねている、それが改めて分かった。
浦沢のトークも興味深い。漫画を書く際に重要な"コマ割り"をする際に、どうやって決めていくのかとたずねられた。すると彼は「理詰めですね」と答えた。何度も読者の視点や物語のスピードを考え、徹底的に計算して導き出す。芸術は感覚で組み立てるもの、と私は解釈してしまいがちだが、論理的な思考によるところも多いのだ。
"才能"さえあれば努力なんていらない。そんなことを微塵でも思っていたことに嫌気がさした。世の中に努力なしで成り立つ仕事なんてあるわけがない。当然のことに、改めて気づかされた。
※NHK プロフェッショナル 仕事の流儀 「トークスペシャル Part2~大野和士 浦沢直樹」(2007年3月15日放送)