AI王者「エヌビディア」、PCゲームがルーツ 創設者は台湾出身、革ジャン愛用

   ニュースで毎日のように、「エヌビディア」という名前を聞くようになった。人工知能(AI)ブームをけん引する米国の大手半導体企業だ。ルーツはPCゲーム。今や世界の株価をも大きく左右するモンスターのような存在となっている。

日本の半導体産業は再興なるか(画像はイメージ)
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時価総額はトヨタの約5倍

   2024年2月22日、日本では日経平均の株価が一気に800円以上も上昇し、史上最高値を更新した。これは、同日早朝、米国で発表されたエヌビディアの好決算の影響が大きかったとされている。

   エヌビディアは1993年、米国で創業した。同社のウェブサイトなどによると、99年に大量のデータを素早く処理できる「GPU」(画像処理半導体)を発明。PCゲーム市場を大きく成長させたことで、その後のAI時代の火付け役となった。メタバースや、クルマの自動運転にも、同社の半導体が欠かせない。

   朝日新聞は22日夕、さっそくエヌビディアの急成長ぶりをまとめた記事を公開している。それによると、AI向け半導体シェアは同社が8割を占める。売上高は、「半導体の雄」と呼ばれた米インテルや韓国サムスン電子を上回るようになった。

   生成AI需要への期待から、エヌビディアの株価はこの1年で3倍以上急騰。直近では、時価総額は約2兆ドル(約300兆円)。米アマゾンや米グーグル親会社のアルファベットを抜き、米IT大手ではマイクロソフト(MS)、アップルに次ぐ規模に。日本トップのトヨタ自動車の約5倍だという。

 

ゲームからAIへ

   東洋経済ONLINEは2017年5月30日、早々とエヌビディア躍進の秘密をまとめている。それによると、エヌビディアの主力製品のGPUは、従来テレビゲームなどで画像を映し出すために用いられてきた。

   そのGPUが、最新の人工知能(AI)技術、「ディープラーニング(深層学習)」での情報処理に適していることが判明する。開発を強力に押し進めたのが、ジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)だ。「エヌビディアの大躍進は、フアンCEOというカリスマ経営者の手腕による部分が大きい」と同誌は強調する。

   深層学習に大きな商機を見出したフアン氏は、即座にエヌビディアの新たな中心事業と位置付け、経営資源を集中させた。それが今のエヌビディアの成功につながった、と分析している。

   先の朝日新聞も、「チャットGPTなどの生成AIの基盤となる『大規模言語モデル(LLM)』の開発や運営には、膨大なデータを処理する計算能力が必要となる。それを支えるデータセンター向けの高性能の画像処理装置(GPU)を手がけるのがエヌビディアだ」と現状を説明している。

   CEOのフアン氏は1963年生まれ。台湾出身。幼少時に米国に移住し、スタンフォード大学で電気工学修士号を取得後、若くしてエヌビディアを設立している。ラフな革ジャン姿で記者発表などに臨むことが多い。米ブルームバーグ通信の最新の世界長者番付で、フアン氏は21位だという。

台湾の世界最大手が熊本に工場

   半導体産業は、今や「台湾」が世界最強となっている。多数の関連企業があるが、中でも有名なのは半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)だ。時価総額はアジアの企業ではトップで、トヨタ自動車の1.5倍の86兆円だという。

   半導体分野で日本は、かつては世界のトップレベルだった。現在は大きく後れている。そのため、政府はTSMCの新工場を熊本に誘致することで、失地回復を狙っている。熊本では2月24日、同社第一工場の開所式があった。ロイターによると、総投資額約1兆円。このうち日本政府が最大4760億円を支援する。経済産業省は同日、27年稼働予定の第2工場には7320億円の追加支援を行うと発表した。

   日経新聞によると、TSMCの熊本進出が起爆剤になり、日本での半導体投資額は29年までに9兆円規模に達する見込み。「日本の半導体産業の再興が熊本から始動する」と書いている。

   TSMCは、エヌビディアと親密。エヌビディアが半導体を設計し、TSMCに受託生産を依頼するという関係だ。

「歩くのではなく、走りなさい」

   米国のIT大手ではもう一人、台湾系米国人が活躍している。リサ・スーさん。1969年生まれ。幼少時に台湾から米国に移り、マサチューセッツ工科大学の大学院で修士号、博士号を取得している。

   2014年から半導体大手、アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の最高経営責任者(CEO)を務めている。17年には高性能のRyzenシリーズプロセッサをリリース。パソコンの頭脳とされるCPU(中央演算処理装置)で使われ、同社の業績を大きく押し上げた。このシリーズは、日本でも将棋の藤井聡太八冠がパソコンで使っていることで有名だ。

   AMDは近年、インテルと激しい競争を繰り広げている。エヌビディアと同じように、開発に資源を集中し、生産は、台湾積体電路製造(TSMC)に委託している。

   エヌビディアのファンCEOは、今も台湾との関係が深いようだ。ブルームバーグによると、23年5月には、台北の国立台湾大学卒業式に出席。以下のようなスピーチをしたという。

「われわれは40年の間にPC、インターネット、モバイル、クラウドを作り出し、そして現在AI時代を迎えている。あなた方はこれから何を生み出すか。それが何であれ、われわれがそうだったように、それを追いかけて走るべきだ。歩くのではなく、走りなさい」

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