4.5兆円が「タンス預金」から動き出す? 7月「新紙幣発行」の意外な影響
今年7月の「新紙幣発行」を前に、さまざまなところで水面下の対応が進んでいる。NHKの報道によると、新紙幣に対応した銀行のATMの生産台数は、前の年度の2倍にあたる2万台近くまで増える見込みだという。
インターネットには、2024年から始まった投資促進策「新NISA」も、新紙幣発行に合わせたものではないかと指摘する声がある。旧紙幣での「タンス預金」の使い道として、新NISAを利用した投資が受け皿として準備されているというわけだ。
直近1年間で1兆円も減った「タンス預金残高」
「タンス預金」とは、金融機関に預けずに手元に残している現金のこと。実際には家具の引き出しに入れているわけではなく、金庫に保管している場合が多い。
タンス預金にすることで、銀行の破綻から資産を守れるが、国内においてはほとんど杞憂だろう。現金が必要なときにすぐに使えるから、ということだが、課税を逃れようとする場合も少なくないと見られている。
価値は変わらなくても、旧紙幣は手元に持っていたくない気持ちになるものだ。新紙幣発行の目的は、表向きは「新たな偽造防止策とユニバーサルデザインの採用」だが、実は「タンス預金のあぶり出し」があると推察する人もいる。
日本全体で旧紙幣のタンス預金が、新紙幣への切り替えで市場に出てくるとすると、大きな経済効果も期待されるが、実際にそんなことが起こっているのだろうか。
第一生命経済研究所は、同研究所経済調査部首席エコノミストの熊野英生氏による経済分析レポート「タンス預金が減っている」を1月15日に公開した。
試算によると、2023年12月のタンス預金の残高は59.4兆円で、2023年1月の60.4兆円から約1兆円も減少しているという。
「2025年問題」を前に資産の争奪戦が起こる?
この変化はコロナ禍の反動かと思いきや、20年前の新紙幣発行時(2004年11月)にも同様に9か月前からタンス預金が減り、一時は前年比7.5%減になったという。
今回同規模の減少が起きた場合、4.5兆円程度の資金シフトが起きる可能性がある。
筆者の熊野氏は「2024年夏にかけてタンス預金からのシフトが活発化することは間違いない」と見ている。理由のひとつは、6月に所得減税が行われることだ。
過去の一時的所得増は貯蓄に回りやすかったが、今回は新紙幣の発行を前に「タンス預金に回す割合は相当に少なくなるだろう」と予想する。
また、インフレ傾向が強まる中、タンス預金の資産価値は実質的に目減りするため、資金の移動が起こっていると予想される。
ただし資金の行方の候補のひとつとして、熊野氏はタンス預金と性格の似た「金(きん)」をあげ、期待されるような「消費拡大や株式・投信へのシフトは起こらない」と見ている。
とはいえ、今後は複合的な政策でタンス預金を吐き出させようとする機会が増えることが予想される。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となって我が国が超高齢化社会になる「2025年問題」を前に、資産の争奪戦が起こるかもしれない。