戦争では「感染症」が怖い ガザやウクライナの前線でネズミ大繁殖
戦争ではしばしば、戦死者よりも病死者が多くなる。特に怖いのが感染症のまん延だ。ウクライナの前線や、パレスチナ・ガザで避難民が集まっている地区ではネズミの大量発生が報じられている。ネズミは「感染症の運び屋」として知られている。
子どもの下痢が広がる
現在、感染症の流行が最も心配されているのはパレスチナのガザ地区だ。ロイターによると、世界保健機関(WHO)のハリス報道官は2023年11月28日、ガザに関して「保健の態勢を回復できなければ、結局は病気での死者数の方が爆撃で命を落とす人よりも多くなる」と警鐘を鳴らした。
12月20日の読売新聞によると、ガザ南部のエジプトとの国境に近いラファには避難民が殺到、人口過密状態となっている。トイレを使うには3~4時間並ぶこともある。外で用を足す人が多く、周辺には悪臭が漂う。道端にはゴミが放置され、ネズミがはびこる。熱を出し、せき込む人も多いが、薬の入手は難しい。国連人道問題調整事務所(OCHA)は「下痢やインフルエンザ、水痘など伝染性疾患が急増している」と指摘する。
感染症は、兵舎や避難所、収容所など、密閉空間で広がりやすい。特に衛生状態が悪化すると、まん延に拍車がかかる。ガザではすでに多くの病院が機能を失っており、今後さらなる状況の悪化が心配されている。
ナポレオンはシラミに負けた
過去の戦争ではしばしば、戦死者よりも、感染症による死者が多くなった。戦地での衛生環境の悪化が原因だ。
『人類は「パンデミック」をどう生き延びたか』(島崎晋著、青春文庫)によると、ナポレオンのロシア遠征は、一般的には「ロシアの冬」に敗れたということになっている。しかし、実際には、少なくとも38万人といわれる遠征軍の死者のうち約3分の2は何らかの感染症によるものだった。多かったのはシラミが媒介する「発疹チフス」だったという。
19世紀には、英国をはじめ世界各国でコレラが大流行した。これはインド独立の戦いを抑え込むため、インドに送り込まれた英国兵が現地から持ち帰ったともいわれている。『コレラの世界史』(見市雅俊著、晶文社)によると、英軍がコレラ原生地のベンガル地方からインド内を長距離移動したときには、約1万人の部隊のうち約3割がコレラで死んだという。
第一次世界大戦の時期には、全世界がスペイン風邪で大打撃を受けた。もともとの発生源は、米国内の陸軍基地だったといわれている。米軍が欧州戦線に投入されたことで、欧州全土に拡大。さらに世界全体に広がり、死者は2000万人から4500万人にのぼった。大戦での戦死者よりもはるかに多かった。
BS1スペシャル「感染症に斃れた日本軍兵士 マラリア知られざる日米の攻防」によると、太平洋戦争では、日本軍兵士の6割が餓死・戦病死だった。軍は南方戦線でのマラリア対策に追われた。
ネコも前線に送り込まれる
12月7日の共同通信によると、ウクライナ軍部隊の陣地では最近、ネズミが大量発生。兵士の食料を食べたり、睡眠を妨害したりする被害が広がっている。
前線の周辺では戦闘で農地が荒らされたり、耕作が放棄されたりして、ネズミの餌が減った。冬に入って寒さが厳しさを増してきていることもあり、風雪をしのぎやすく兵士の食料が保管されている塹壕などの陣地に、ネズミが押し寄せてきたとみられている。
ウクライナ軍は、捕獲用のわなや殺鼠剤などを前線の部隊に届けているほか、ネズミを捕るネコも送り込まれているという。
一方、Forbes JAPANは22日、ウクライナ国防省情報総局(GUR)の情報として、同国に侵攻したロシア軍兵士の間で「ネズミ熱」と呼ばれる病気が流行していると伝えている。ネズミなどのげっ歯類が媒介し、感染すると嘔吐や目からの出血などの症状を引き起こすという。
ネズミは食物をあさるだけではない。東京都保健医療局によると、糞や尿からサルモネラ症、レプトスピラ症、腎症候性出血熱などを感染させる恐れがある。また、寄生しているノミやダニなどを介してペスト、つつがむし病などを感染させる「感染症の運び屋」としても知られている。
ペストは、日本では1926年以降、絶滅状態だが、世界各地では毎年1000~3000人の患者が発生しているという。