AI時代だから「人間性」が問われる 変わる「記者・ライターの役割」とは

   生成AIが活躍の幅を広げるほど、「人間性」が物をいう時代だという。

   ディップ(東京都港区)のAI・人工知能専門メディア「AINOW」編集長・小澤健祐さんこと、おざけんさんが、ジェイ・キャストの常設メタバース空間「バーチャ場」で「記者・ライター向け生成AI活用セミナー」を2023年11月9日に実施した。AIに代替されにくく、メディア・記者が磨いていくべきスキルとは一体何か。セミナーの模様を、アーカイブでお届けする。

ディップのAI・人工知能専門メディア「AINOW」編集長・小澤健祐さんこと、おざけんさん
「記者・ライター向け生成AI活用セミナー」をバーチャ場で実施
著書「生成AI導入の教科書」
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キーワードは「独自の情報」と「ソフトスキル」

   おざけんさん曰く、AIとは「答えがない問いに対して、一緒に解決する方法を模索していく」存在。明確な「正解」がある問題の解決に使おうとするからハルシネーションが起こる、と述べた。「ハルシネーション(幻覚)」とは、AIが事実に基づかない虚偽情報を生成してしまう現象を指す。

   生成AIは「オープンで膨大なデータを学習しているだけ」に過ぎず、現場のリアルな声や情報がわからないままだ。しっかりと仕事で活用するためには大まかに、(1)いかに「独自の情報」を入手できるか、(2)人間が備える能力のうち「ソフトスキル」を伸ばせるか、この2点が重要になる。

   まず(1)を理解するうえで欠かせないのが、「情報」の種別。おざけんさんは従来のあり方を、このように説明した。

一次情報:現場で取得するデータ、取材データ
二次情報:SEO記事、ECサイト
三次情報:キュレーションメディア、検索系サービス

   しかし、生成AIによって上記は変化を遂げていく。例えばAIに一言「おすすめの冷蔵庫を教えて」と聞けば、一瞬で候補をいくつも出してくれる時代に、一般公開されている冷蔵庫の情報をまとめただけの記事=二次情報(介在役)は不要になる、と想像がつくだろう。いかにユニークな独自情報を得て、AIに学習・活用させるかがカギとなる。つまり今後は、

「一次情報(ユーザ情報、現場で取得するデータ)を持つデータホルダーが、生成AI搭載型プラットフォームとの連携を強化していく」

と、おざけんさん。自身も「記事を書く」のはChatGPTにある程度任せ、人に会う・イベントに行く・取材をすることにできるだけ時間を割いているという。

「AIに仕事を奪われる」ってホント?

   続いて(2)。おざけんさんは、人間が備える能力を大きく3つに分けて考えている。

(a)ソフトスキル:人間性に近い、対人関係などのスキル。非形式知(Art)
(b)ハードスキル:理論や手法、ツール。形式知(Science)
(c)メタスキル:スキルを使いこなすスキル。経験知(Practice)

   AIが代替しづらく、学習もしづらいのは(a)。逆に、(b)は代替しやすく、学習もしやすい。(c)は代替しづらく、学習に時間がかかる。おざけんさんは、「ちゃんと対人関係を結んで情報を取りに行ったり、あとは長期的なトレンドをしっかり掴んだり」できる記者にこそ、良い記事が書けると考えている。

■おざけんさんが「これから重要になる」と考える5つのスキル
特に「戦略を描く能力」の重要性が高く、これに紐づく形で他のソフトスキルも重要になってくる

(1)戦略構築力
(2)対人折衝力
(3)論理的思考力
(4)AIマネジメント力
(5)課題解決能力

   昨今「AIに仕事を奪われる」との声がしばしば聞かれるが、おざけんさんに言わせれば、「効率化できる部分にAIを活用していかなければ、これからのキャリア、どの職種でも生き残っていくことは無理だと思っている」。

   おざけんさんは、「仕事」とは、いくつかの「作業」で成り立つ「業務」の集合体と考える。マネジメント層になるにつれて、持つ仕事量は増えていく。AIに任せてよい作業をうまく選別し、パスできれば、独自情報を得るための本質的な時間を確保しやすくなる。

11万文字中8割をAIが執筆した本

   おざけんさんは、「AINOW」編集長として多忙な日々を送っているだけでなく、複数社のPRやSNSマーケティングなどのコミュニケーション戦略を担い、企業のYouTubeチャンネル運営、デヴィ夫人のTik Tok運営に携わり、カメラマンとしても活躍している。時間が足りないどころの騒ぎではない。


おざけんさんのプロフィール

   そうしたなかでも、23年9月に著書「生成AI導入の教科書」を発売(出版社 ‏: ワン・パブリッシング)。11万文字中8割ほどを、ChatGPTを駆使して書き上げたという。最近も、正午に終わったあるインタビューの初稿を15時には完成させた。しかも、クオリティにほぼ違和感がない状態に仕上げられたという。もちろんこれも、Chat GPTの助力あっての成果だ。

   具体的な手法を明かし、スクリーンで再現して見せてくれた。

(1) AI技術を活用した音声記録管理サービス「CLOVA Note」で、インタビュー音声を書き起こし
(2) データをExcel形式でダウンロード
(3) インタビュー原稿に使う部分・使わない部分を取捨選択。語句の誤りを修正したり、誤字を消したりする
(4) ChatGPTに、「以下のインタビューの内容をブラッシュアップしてください」と指示し、(3)で選んだ「使う部分」をコピーペースト
(5)アウトプットに対し、「もう少しわかりやすくして」など、コミュニケーションを重ねる形で文章にしていく

   おざけんさんに言わせれば、ChatGPTは「化粧をする際の下地作り」には長けている。ただし、「その上にどのようなアイライナーを引くか、どのような見た目に仕上げるかという部分には自信がない」。だからこそ、生成AIが作り出した文章をそのまま使おうとするのではなく、編集者になったつもりでChat GPTと向き合い、より良いアウトプットを出してもらうために、きちんと指示をするのが大切なのだ。


たった数分で、人が書いたような文章がなめらかにつづられていく

   他にも、「生成AIの本質とは」、「作るAIから使うAIへ 生成AI活用の可能性」といったトピックを紹介してくれた。詳細は「生成AI導入の教科書」を参照のこと。

   おざけんさんは、「人間とAIが共存する社会をつくる」をビジョンに掲げている。それは人が「人らしさ」を磨きながら、多種多様なAIを的確にマネジメントする社会といえるだろう。

   デジタルの進化によって、人間の本質が浮き彫りになる時代に、AIを「仕事を奪う相手」と見なして拒絶するか、あるいは「考えなしに、仕事を丸投げできる都合のいい相手」として真価を発揮させずにおくか。それとも人とAIとで役割の棲み分けを図り、適材適所で事に当たるか。ここの判断にも、「人間性」が問われそうだ。

   ......という記事を作り上げるのに、記者は3時間かかった。正午に終わったインタビューの初稿を15時に書き上げたという、おざけんさんとChatGPTのタッグに、肉薄できただろうか。

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