「VRChat」ソーシャルVRで「一強」説 対抗し得るメタバースは(前編)
「ソーシャルVR」と呼ばれるメタバースサービスがある。VR(仮想現実)ゴーグルを使って仮想空間に入り、他のユーザーと交流できるプラットフォームを指す。近年はさまざまなソーシャルVRが登場するが、よく「王道」「代表格」などと称されるのが「VRChat」というサービスだ。
世界最大のVRイベント「バーチャルマーケット」も、主要会場はVRChatだ。ソーシャルVRといえば「VRChat一強」――。このような印象を受けるが、正しい見方なのか。あるいは、匹敵し得るサービスが存在するのか。2回にわたってお伝えする。
国内外で誕生するソーシャルVR
ソーシャルVRサービスのこれまでの動向を振り返ろう。米国発のVRChatは2014年にサービスを開始した。
国内発のソーシャルVR「cluster」は、2017年に登場。スマートフォンからも利用可能で、「イベント」に関連した機能の豊富さが特徴だ。
2018年には、動画配信機能に強みを持つ「バーチャルキャスト」が日本でサービス開始。同年、チェコでは「NeosVR」が登場した。こちらは自由度が高いとされ、VR空間内でワールド(空間)や3Dアイテムを編集できるのが特徴だ。
近年だと、2022年10月には中国から「Reborn VR」というサービスが登場。23年8月には、日本で「プラネタ」というプラットフォームが「オープンαアクセス」として公開された。9月には、電通グループが「バーチャル体験プラットフォーム」として「xambr」を提供開始した。
10月にはNeosVRの開発チームによって新たなソーシャルVR「Resonite」が公開された。
VRChatはソーシャルVRの「代名詞」?
VRメディアの「メタカル最前線」は22年4月7日付記事において「VRChatは、ソーシャルVRの代名詞ともいえる最大級のサービス」と評する。
「メタバース文化エバンジェリスト」として活動するバーチャル美少女ねむさんは、スイスの人類学者リュドミラ・ブレディキナ氏と共同で「ソーシャルVR国勢調査2021」を実施した。日本を中心とした国内外のソーシャルVRユーザーを対象に、21年8月23日~9月11日に実施した調査で、回答数は1197件だ。
それによると、VRゴーグルを使いソーシャルVRを利用している日本ユーザーの99%がVRChatをよく利用すると回答。次点のclusterは23%で、3番目にバーチャルキャスト(20%)と続く。あくまで当時の数字ではあるが、大差でVRChatがトップだ。
VRChatユーザーで「内閣府地方創生SDGs官民連携プラットフォームメタバース分科会」の副会長を務める水瀬ゆずさんに取材した。「大原則として、メタバースというカテゴリだと、Rec RoomやRobloxの方がユーザー数は多い」と語る。どちらも海外で著名なゲームプラットフォームで、仮想空間で他者と交流ができる。
つまり、「メタバース」という広いくくりで考えると、ユーザー数や盛り上がりは「VRChat一強とは言えない」。ただ、「VRゴーグルをつけて遊ぶユーザーが多いという意味だと、VRChatが優位にたっているのは間違いない」と分析する。
初心者にやさしい「Resonite」は
ソーシャルVRとしてVRChatが他サービスより普及している理由は何か。単純に「昔(2014年)からあった」のが理由のひとつと水瀬さんは語る。VRChat上で流行したネットミームが話題になることもあり、ユーザーは次第に増えていった。またクリエイターにとっては自由度の高いサービスで、さまざまな空間が作られていくように。「運と偶然」によって浸透した部分はあると語る。
自由度が高いVRサービスでは、先述のNeosVRも該当する。しかし、23年10月5日付「窓の杜」記事によると、運営陣の経営方針などの行き違いから、「NeosVR」の開発は長らく停止している。一方で水瀬さんによれば、VRChatでは比較的頻繁にアップデートがなされ、操作性が洗練され続けているとの強みがある。
他方、現在「興味深い」とみるサービスとして、NeosVRの開発チームが新たに手がけた「Resonite」を挙げる。その理由は、新しく始めた初心者にガイドを行う公式の「メンター」という案内人制度の存在だ。
VRChatは日本語には完全に対応しておらず、わかりやすいガイドもないため、初心者は「海外のユーザーに囲まれ、よくわからないまま(プレーを)やめる」事例がままある。
一方のResnoiteでは、初心者のもとにすぐメンターが駆けつけてくれるという。メンターの仕組み自体はNeosVRにもあるが、Resoniteではさらに頻度の高いアップデートが見込めるようになった。そのほか、アバターのアップロードが比較的手軽にできるという強みもあり、今後VRChatへの対抗馬になりえる可能性はあるという。「(Resoniteの発展に)期待しています」と語った。(後編に続く)