「旧日本軍施設」VRで超リアル 「もはや実写」を生み出す3D化技術

   写真をもとに3Dモデルを作る「フォトグラメトリー」という技術がある。フォトグラメトリークリエイター・とこよしさんは、この技術を使った3D空間をメタバース上に複数公開している。最近では和歌山市・友ヶ島に残されている旧日本軍の施設を3か所、相次いで3D化。2023年8月下旬、メタバースプラットフォーム「VRChat」にアップロードした。

   高精細でリアルなグラフィック。空間内に入ると、もはや実写と見分けがつかない場所も。とこよしさんに取材すると、「友ヶ島第3砲台跡」というワールドの制作時に撮った写真の数は「4700枚ぐらいだったはずです」と話す。

VRChatで公開されている「友ヶ島第3砲台跡」 リアルすぎてアバターと撮るともはや現実に3Dキャラクターを重ねたAR(拡張現実)写真に見える
朽ちた将校宿舎跡 内部の様子もフォトグラメトリーされている
VR版第3砲台跡地下施設の外側
VR版第3砲台跡の内部 このように明るく照らせる
友ヶ島にある「装甲掩蓋」も3D化
同・友ヶ島の「旧海軍聴音所跡地」 落書きがそこら中に
「旧海軍聴音所跡地」の外の風景も再現したバージョン こちらは普段は非公開ワールドとしている
卒業研究の一環で作った「みとうさんぐち駅」のフォトグラメトリーワールド
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臨場感たっぷり

   和歌山市公式サイトによると、友ヶ島「第3砲台跡」は明治政府が紀淡海峡防備のために築造した「由良要塞」の砲台のひとつだ。防弾貯蔵庫として用いられていた地下施設は保存状態が良好で、見学可能となっている。

   とこよしさんがVRChatに公開している「友ヶ島第3砲台跡」は、ここをフォトグラメトリーで3Dモデル化したもの。ワールドに入ると、まずは朽ちた将校宿舎跡が見えてくる。「当時の将校達の憩いの場でありました」と説明する案内板の文字もくっきりと読める。

   レンガ造りの地下施設に、暗い内部を3Dモデルの懐中電灯で照らしながら歩いて入れる。もしくはワールドに備わったギミックにより、内部全体を明るく照らした状態にもできる。奥まで進んでいくと、VRながら閉塞感を覚えるような臨場感がある。

   ほかにも、友ヶ島に残る「装甲掩蓋(えんがい)」や「旧海軍聴音所跡地」という2か所のスポットを、フォトグラメトリーで公開している。

   「廃墟が好き」と語る、とこよしさん。聴音所はボロボロで、典型的な「廃墟」然とした雰囲気だ。壁のそこら中にある落書きも、フォトグラメトリーで確認できる。訪れた人のものとおぼしき人名が多い中、「童話人」とだけ書かれた謎の落書きが印象的だ。

   友ヶ島をピックアップしたのは、離島のSFサスペンス劇を描いた漫画・アニメ「サマータイムレンダ」がきっかけだ。同作の視聴後、舞台のモデルがこの島だと知り、「ワールドにしたい」との思いから休日に足を運んだとのことだ。

VRで廃墟を残す

   フォトグラメトリーは「写真素材が命」と、とこよしさん。まずは3D化する対象のスポットを移動しながら、何枚も小刻みに写真を撮影する。

   撮影写真はフォトグラメトリー用のソフトウエアに入力。たとえば壁のシミなど、写真を特徴づける「特徴点」という部分を自動で認識する。ソフトは特徴点を参考に、写真同士の位置関係を分析し空間の形や大きさを計算。3Dモデルが生成されていく。

   写真同士の位置が遠すぎると、3Dモデル化時に見た目が不自然になる。「撮影間隔をなるべく狭くするのがコツ」とのことだ。その後形状やテクスチャ(質感)を自分で細かく手直しして、ワールドを作る。

   とこよしさんは、大学時代は建築学科で学んでいた。ワールド作りを始めたのは、卒業研究がきっかけだ。建築とVRをテーマに考えていたところ、VRChat上でフォトグラメトリーのワールドがあるのを知った。

   このとき「VRに廃墟を残しておけば、いつでもどこでも(廃墟に)行ける」と考え、卒業研究の一環として制作に着手したという。そうして2021年5月に公開したのが、東京・奥多摩町でかつて運行していたロープウェーの廃駅「みとうさんぐち駅」だ。

   自作ワールドにVR上の友人や他のユーザーが訪れている様子を見るのが、「めちゃくちゃうれしい」。そう感じたのが、現在もフォトグラメトリーワールドの制作を続けている理由のひとつだ。

   廃墟以外にも、たとえば滋賀県大津市内にある壁面のストリートアートが印象的な高架下の風景など、B級スポット(一風変わった観光地)をフォトグラメトリー化して公開しているとのことだ。

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