うめき声、無数の視線、振り向くとそこに... メタバースお化け屋敷「地獄館」レポ
メタバースプラットフォーム「VRChat」。そこには「心霊スポット」「いわく付きの家屋」など、ホラー要素を題材にしたワールド(仮想の世界)がいくつもある。
そうしたなか、「お化け屋敷」そのものをテーマにしたワールドが、ぬらりと登場した。2023年8月18日公開の「お化け屋敷 地獄館」だ。
地獄にようこそ
「地獄館」は和風の建物。入場すると、案内板のストーリー説明が目に入る。
「夏休みの終わるころ。あなたは思い出作りのために肝試しへ出かけた。目的地は古びた日本屋敷の廃墟だ」
「この屋敷は『あの世へ繋がっている』と噂され、地元の住人も近寄りたがらない」
などとある。この時点ではまだ、さほど怖さはない。
先に進むうえで、3Dオブジェクトの携帯電話を手に持ち続ける必要がある。電話から出るライトは、懐中電灯代わりにもなる。
ふすまの札に触れると、ゲーム開始だ。廊下を歩いていくと、流れていたBGMが消え静かになる。
何もない廊下を進むと、徐々に暗くなっていく。広間に着くと、携帯電話に「着信」が。応答すると部屋が真っ暗に暗転。やがてふすまが開き、薄明りが見える。その向こうは、無数の木材や卒塔婆(そとうば)らしき板が畳に差し込まれた異様な空間だ。これは、ちょっと......怖い。
木材のすきまから、土気色の肌に、白装束(しろしょうぞく)をまとった地獄の亡者(もうじゃ)たちが見つめてくる。苦しそうなうめき声が、360度から聞こえてくる。暗いところに明かりを向けると、知らない間に亡者が近くに居たことに気付いて驚く。
天井から死体が降ってくる、真っ赤なヒガンバナの上で数人の亡霊が首を吊っているなど、恐怖演出には絶え間が無い。VR(仮想現実)ゴーグルを使っていると、臨場感はたっぷりだ。
中盤には、このお化け屋敷のストーリーを伝える部屋が。一定の間隔ごとに、廊下には物語の書かれた案内板が設置されている。そして案内板の側面を覗くと、等身大の人形が動く簡単なアニメーションが楽しめるのだ。ここはいかにも遊園地のアトラクションのような雰囲気で、少しワクワク感がある。
和服の男女が恋に落ちるも、夫は町娘と浮気してしまい、悲観した妻が自刃するというストーリー。自分の罪に苦しんだ様子の男は、地獄に引きずり込まれる。
屋敷全体を通して難しい謎解き要素や、突然大きな叫び声が聞こえてくるなどの、過剰なドッキリ演出はなかった。
いっそ「作り物のエンタメ」として
順路を歩き終えると、明かりがもどってくる。最後は、地獄館の登場人物が並んで紹介されている空間。名前はそれぞれ、妻を裏切った「罪人の男」と、夫に傷つけられた「亡霊の女」。白装束に身を包んだ「亡霊たち」と「亡者たち」だ。物語が終わったという雰囲気で、一気に緊張感が解ける。
そして「あなた」という欄には、ユーザー自身のアバターを表示。下部の説明書きには
「あなた自身は罪人ではないため無事生還した」
とある。一方で「しかしこの先、彼と同じ末路を歩むことが無いよう努々気を付けよ。仮想世界とて、そこにたゆたう愛憎は本物なのだから......」と意味深なメッセージも。
ワールドを制作したエウレカフォンさんに取材した。スマートフォン向けゲームを手がける「エウレカスタジオ」(東京都新宿区)に所属するクリエイターだ。
VR(仮想現実)は没入感の高さが魅力。一方で、SNSとしての側面があるVRChatでは、どれだけリアルに作りこまれたホラーワールドでも、お化け屋敷のように「作り物のエンタメ」として楽しまれやすいという。
「それならいっそ、作り物のエンタメとしてリアルに作ったものこそ、VRChatとの相性が良いのではないか?」と考え、このワールドを企画したと話す。「現実にあるお化け屋敷の雰囲気の再現」を意識したという。
公開してから3日で、ワールドのFavorites(お気に入り)数は1400を超えた。本格的な和風お化け屋敷のワールドが「ありそうで、なかなかなかった」ため、ユーザーから注目されたのではないか、とエウレカフォンさんは話す。
またワールド入口付近のディスプレーでは、他のプレイヤーが挑戦する様子を映像で見物できる。そのため、フレンド(友人)を誘って行くのも楽しいとのことだ。「テーマパークに来たような気持ちで、お化け屋敷らしい雰囲気を楽しんでほしいです」とコメントした。