声優・野島裕史に聞く「今求められる演技」とは キーワードは「引き算」

【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招き、山下さんがMCとなって、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?

   第25回のゲストは、声優・マルチクリエイターの野島裕史さん。「鬼滅の刃 刀鍛冶の里編」竈門炭吉、「ONE PIECE」フーズ・フー、「ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~」アンペル・フォルマーなど、数々の人気アニメ・ゲームキャラクターに声を吹き込んでいることはもちろん、「めざまし8」のナレーション、そしてラジオパーソナリティと多岐にわたる活躍をしている。

   テーマは「声優・野島裕史に聞く『今求められる演技』とは キーワードは『引き算』」だ。スペースアーカイブはこちらから。

声優・マルチクリエイターの野島裕史さん。ロードバイク好きが高じて、仕事にもなっているという
野島さんが作ったミニチュアフィギュア
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「好き」で「楽しい」からやっている

「最近思ったのは、『ひょっとしたら、声優も趣味だったんじゃない?』。楽しい、好きと思ってやり続けていたら、仕事につながった趣味」

   野島さんは、声優としての原点を振り返り、こう語った。子どもの頃から「好奇心が異常に旺盛だった」といい、断捨離の必要に迫られるほど、趣味が豊富。特にロードバイク、楽曲制作、デザインに精力的に取り組んでおり、どれも仕事としても活動しているほどだ。例えば「ラジオ劇場下町ロケット」。ナレーションに加え、楽曲制作でも作品に携わった。


野島さんは、ミニチュアフィギュア制作にもハマっているそう

   もとは映像や音響の制作を手掛ける、「何でもやれ、っていう会社のサラリーマン」だった。脚本を書いたり、ナレーションを付けたりしているうちに「声の仕事もクリエイトなんだと感じてハマりはじめた」と、野島さん。親兄弟が声優で、身近な職業だったこともあり、「ダメもとでやってみよう」と決断し、今に至る。

   野島さんは昨今、声優の演技傾向として「シンプルかつ繊細」なものにシフトしてきていると感じている。いわゆる昭和アニメがはやった頃は、「大げさで濃いめの演技が求められる風潮があった」。ただ、絵や音楽、SEの表現力が時と共に向上してきた背景を踏まえると、演技は「(必要に応じて足すことができる前提で)引き算をする」のも重要だという。

   声優以外の、あらゆる「クリエイター、アーティスト」にも共通して言えることのようだ。山下さんが生み出す映像を例にとり、野島さんは「実は、めちゃめちゃ引き算している」と評した。山下さんの作風と言えば、息もつかせぬ怒涛の展開力、情報量の多さが特徴だが、その心は。詳細はスペースにて(33:00~)。

作品は声優だけが作っているわけじゃない

   声優と言えば「花型のイメージ」と山下さん(55:18~)。すると野島さんは、「昔は声優は裏方だった」と振り返り、こう続けた。

野島さん「作品はみんなで作るものだから、アニメ作品一つにしても、声優ばかりではなく、絵を描く人、音を付ける人...色々な人にスポットライトを当ててほしいですね」
山下さん「映像を作っていて、声を吹き込まれると『命が吹き込まれている』と体感します。同時に、野島さんが裏方の人たちに気を遣ってくださるのはありがたいです」

   スペース終了後の二人に話を聞いた。野島さんは、会話しながら自身を振り返ることで初心を思い出せたそう。映像作家である山下さんとの対談を通じ、「クリエイターの仕事に就いている人間というのは、皆なにかを生み出したいエネルギーに満ちていて、ジャンルの垣根を越えて志や思いは一緒なんだと思いました」と語った。

「特に日頃関わっているアニメーションの現場は声優が表に立つことが多いですが、本当に多くのクリエイター集団によって生み出されているということを、改めて伝えていきたい」(野島さん)

   野島さんはスペースで、小学生時代のあるエピソードを披露していた。花火をしようと思い立ったが、自分一人のおこづかいではちょっとしか買えない......。「どうやったらもっとたくさん楽しめるか」と考えた結果、近所を巻き込む「花火大会」企画を立てたのだ。各家庭から参加料500円を募り、チラシを10枚作って情報発信したところ、「4000円くらい集まり、なかなかの量の花火が買えた」。

   何でも「どうやったら楽しめるか」を考え、面白がる。誰かと力を合わせて一つのものを作り上げる楽しさを知っているからこそ、野島さんは「みんな」に思いを傾けるのだろう。

   山下さんも、「声優さんだけでなく他のスタッフにも注目してほしい」という野島さんの言葉に力をもらったようだ。

「自分自身も『作品はひとりのチカラではなく、みんなのチカラで作り上げている』を改めて実感できる良い時間でした」(山下さん)

   第26回作リエは、2023年7月19日実施予定。

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