コロナ感染者増でも空気ゆるんだまま 「定点把握」で緊張感伝わらない
新型コロナウイルスの感染法上の扱いが、2類から5類に変わって間もなく2か月。感染状況は「定点把握」に変わったが、これまでの「全数把握」に比べて「全体状況」が見えにくくなっている。また、同じく定点把握が行われている季節性インフルエンザと違って、「注意報」や「警報」も出ないため、社会全体に緊張感や警戒感が伝わらない、との指摘も出ている。
全体の人数がわからない
東京新聞は6月16日、コロナが定点把握に変わって、「数字のインパクトは薄れた」と書いている。
コロナが2類の時は、感染者数や死者数は、毎日報告される全数把握だった。それが2023年5月8日に5類になって定点把握に。感染者数は、全国約5000か所の定点医療機関が1週間ごとに新規の感染者数を厚生労働省に報告する方式だ。
この方式の問題点は、当初から各メディアで指摘されていた。週に1回、それも前週の人数なので、感染者数数の増減の把握が遅れる。公表されるのは、「今週は6.13人」などという定点医療機関あたりの患者数なので、全体の人数がわからない。さらには死者の人数が不明、などだ。
6月26日のABCニュースは、コロナが全数把握から定点把握に変わったことも、感染拡大の一因ではないかとの見方を伝えている。ABCの取材に、特に感染が拡大している沖縄県のクリニックの院長は、「全数把握の時の何千という数字からすると、定点把握はとても小さく見える。危機感が持ちにくい数字に置き換わってしまっているので医療機関と県民との危機感のかい離を感じます」と、医療関係者の苛立ちを語っている。
「注意報」も「警報」もない
同じく5類の扱いとなっているインフルエンザも、定点把握で対応している。しかし、コロナとはいくつかの違いがある。
インフルエンザの場合、数値が10人を超えたら「注意報」、30人を超えたら「警報」を出すことになっている。
大阪府感染症情報センターのウェブサイトは概略以下のように説明している。
・インフルエンザでは、1週間の定点医療機関あたり報告数が1を上回ると、インフルエンザが流行期に入ったと考えられる。
・「注意報レベル」は、流行の発生前であれば今後4週間以内に大きな流行が発生する可能性が高いこと、流行の発生後であれば流行が継続していると疑われることを示す。
・「警報レベル」は、大きな流行が発生または継続しつつあると疑われることを示す。
「注意報」や「警報」の発令は、5類定点把握感染症のうち、流行状況を早期に把握することが必要な疾患について、地域における流行拡大を抑制するため、迅速に注意喚起することが狙いだ。
全国患者数の推計も公表されず
鹿児島県では、6月30日発表されたインフルエンザの1医療機関あたりの1週間の報告数が、全国最多の18.09。新型コロナは沖縄に次いで全国2番目に多い11.71人。インフルについては、「10」を超えた6月22日の時点で「注意報」が出ているが、コロナについては発令されていない。
鹿児島の南日本新聞は、「新型コロナの場合は、感染対策を呼びかける根拠となる基準はない。厚生労働省が検討を進めているが、担当者は『コロナは今後の流行の状況が分からず、インフルのようなデータの積み重ねもないため、簡単には定められない』と説明した」と書いている。
朝日新聞によると、インフルでは国立感染症研究所が週ごとに全国患者数の推計を公表しているが、コロナでは示していない。同紙は、「(定点把握の仕組みが)安定的に動くまでは、安定した推計を出せない」とする感染研の考え方や、「警報」「注意報」などの指標については「引き続き検討していく」という厚生労働省のスタンスを紹介している。
厚労省は6月30日、前週1週間の全国の定点医療機関あたりの患者数を公表した。それによると、その前の週の5.60人から約1.09倍の6.13人に増えた。7週連続で増加している。
共同通信によると、日本医師会の釜萢敏常任理事は7月5日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染が沖縄県など九州地方で拡大している状況に懸念を示し「現状は第9波になっていると判断することが妥当だ」と述べた。