「正しさ、恥ずかしさ」脇に置け 仕事や創作に生きるコピーライティングの基本

【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招き、山下さんがMCとなって、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?

    第24回のゲストは、元コピーライターで漫画家のうえはらけいたさん。テーマは「元コピーライター漫画家の脳内チラ見せ 漫画制作にも生きるコピーの基本とは?」だ。スペースアーカイブはこちらから。

広告会社に入った新人コピーライターと、彼が職場で出会った数々のゾワワなエピソードを描く「ゾワワの神様」
第12回コミチ漫画大賞受賞作「コロナが明けたらしたいこと」
ヒーロー製造会社に入社したはずが、怪獣製造業者に配属されてしまった青年・カネコの物語「アバウトアヒーロー」
「アバウトアヒーロー」は、広告会社に入社した頃のことを思い出しながら描いているそう
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広告会社辞めて美大へ

   「面白いテレビCMだけをまとめたビデオ」を作るほど、幼い頃からテレビCMに魅了されていたうえはらさん。好きが高じて新卒で広告会社に入り、コピーライターとして働いた。

   5年ほど務めた後、転機が訪れる。「自分はいつか絵を仕事にする」と確信し、多摩美術大学に編入学したのだ。驚きの行動に見えるが、その訳とは。

「子どもの頃は体が弱く、小学生時代はテレビを見るか、絵を描くか、でした。漫画家になりたかったので、高校の頃『美大に行きたい』と思っていたんですが、担任に反対されました」

   つまり、進学できなかった美大への未練が残っていたがゆえだった。

   卒業後は夢を叶えて漫画家になり、「コロナが明けたらしたいこと」「アバウトアヒーロー」などの作品を生み出してきた。中でも、様々な作り手の哲学のようなものを紹介する「ゾワワの神様」は、うえはらさんが「コピーライターが何なのかわからなかった、駆け出しの自分に向けて描き始めた、半分くらい実体験」の漫画だ。


主人公である新人コピーライターが、少しずつ成長していく様を描く「ゾワワの神様」

   このように、広告会社時代の経験を生かして創作に打ち込んでいる、うえはらさん。山下さんが「あらゆる仕事に通じるコピーライターの基礎とは?」と尋ねると、これまでに授けられてきたという教えを、いくつか明かしてくれた。カッコ内は、スペースで言及・解説した時間。

(1)コピーライティングは「描写」ではなく、「解決」(28:25~)
(2)読み手の想像力を信じないと、言葉は陳腐になる(34:38~)
(3)「正しいけれどつまらない言葉」より、「ズレていても面白い言葉」の方が強い(41:25~)
(4)「恥ずかしい」禁止(47:35~)

   (2)についてさらに言えば、「補足と説明をするほど、広告は読まれなくなり、ときめかなくなっていく」という意味だ。うえはらさんは「できるだけショートセンテンスで含みの多い表現にし、読む側の想像力に託す」のは、覚悟がいると語る。


生みの苦しみ、そして醍醐味が伝わる/「ゾワワの神様」

いかに「ぶっちゃけ」るか

   スペース後半では、コピーライターとして得た学びが、漫画づくりにどう生かされているのかを聞いた。うえはらさんはすかさず、

「(知見が)生かされすぎていて......広告マン全員、漫画家になればいいのにと思います(笑)」

と冗談交じりに答えた。そう言わしめる理由は、大きく分けて二つある。詳細はスペースにて(52:56~)。

   最後に、作リエ恒例の質問「仕事をする上で最も大事にしている、クリエイティブの柱」について。うえはらさんは「自戒を込めて」と前置きし、こう続けた。

うえはらさん「『ぶっちゃけ』ですね。『さらけだし力』と言ってもいい。人が気をひかれるのは正しいことより、本音や人間の生理に近いようなことだと思うので」
山下さん「確かに、自分がツイッターを眺めていて目に留まるのは『ぶっちゃけている漫画』ですね。お利巧すぎるとフックがなくて、誰にもひっかからないというか」

   スペース終了後の二人に話を聞いた。うえはらさんは山下さんとの対談を通じ、気づいたことがあるという。

「偉そうに『コピーライター時代に学んだこと』を列挙させていただきましたが、ふと我に返ると、どれも『漫画家として』は実行できていないことばかり」

   さらに「『正しいけれどつまらない言葉』より、『ズレていても面白い言葉』の方が強い」について、広告づくりに限らないあらゆる創作に通じる話だと再認識した、と話す。今は「正しい」ことが正義になりすぎている時代だ、との思いからだ。

「その状況にカウンターを打つような気持ちで、これからはより個人的で、私小説的な作品を作らなくてはな、と改めて心に刻み直そうと思います」

   山下さんは、「読み手の想像力を信じないと言葉は陳腐になる」という教えが、胸に刺さったようだ。映像においても、セリフだけで全てを補おうとすると途端に安っぽくなってしまう、との理由がある...が、それを逆手に取った演出も考えられる。

「コメディ作品を作っている身からすると、逆に敢えて多くすることで陳腐さを際立たせることも可能......というのも言えそうですね(笑)」

   第25回作リエは、2023年7月5日実施予定。

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