アップル「ゴーグル型ARデバイス」 先行した「グーグルグラス」は失速したが

   米アップルが、新たなウェアラブル機器「Apple Vison Pro」を2023年6月5日に発表した。スキーゴーグルのような見た目のデバイスで、デジタルコンテンツが自分の居る現実空間に存在しているかのような体験が可能だ。アップルが開発した「初の空間コンピュータ」としている。

   ツイッター上では、AR(拡張現実)に対応したデバイスとして米グーグルの「Google Glass(グーグルグラス)」を連想する声が出ている。こちらはメガネのような端末で、レンズ越しに見える現実にメールの内容やブラウザーの情報などを映し出せるデバイスだ。

新発表された「Apple Vision Pro」(画像はアップルの発表資料から)
現実世界とデジタルを融合させる
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現実とデジタルを融合

   Vision Proでは視界に出現したアプリをユーザーの目と手や声で操作できる。例として、体感で幅30メートルに及ぶ映像スクリーンを表示したり、ビデオ通話機能「FaceTime」に参加し、他の参加ユーザーの姿を等身大で映したりするといった使い方が発表内で紹介されている。

   またFaceTime中、Vision Proを装着するユーザー自身は、他の参加者にはユーザーの顔や手の動きをリアルタイムで再現する「Persona」の姿で見えるという。

   ほかに、装着しながらでも周囲にいる人から表情が分かる機能「EyeSight」を搭載。ユーザーの目を認識し、ゴーグル外側のディスプレーに透過しているかのように表情を映す。

   デバイスのボタンを押すと、現実の空間を写真やビデオとして撮影可能だ。保存後、空間を再現した動画などを鑑賞して楽しめる。電源と接続しないバッテリー駆動の場合、2時間稼働可能。価格は3499ドル(約48万円)だ。米国は2024年初旬から、他の地域では24年後半から販売を開始する。

「撮影中」外部にわかる機能

   冒頭で触れたグーグルグラスは、2013年に開発者に向けて「オープンベータ」として1500ドルで発売。写真やビデオ撮影が可能なほか、ネット検索やGoogleマップといったアプリを視界に表示できる。

   ところが、2015年に発売を中止。その後は法人向けのメガネ型端末を展開し、日本でも2021年から新機種の「Glass Enterprise Edition 2」を発売したが、生産は打ち切られ、23年3月15日に販売を終了した。

   ウェブマーケティングを手がける「パンタグラフ」(東京都渋谷区)は、自社ブログの2015年3月4日付記事でグーグルグラスが販売中止した理由を紹介。「安全性の問題とプライバシーの問題が大きな要因と言われています」としている。

   屋外でデジタル情報に集中することで、運転や歩行時の事故につながる危険があったとの指摘だ。またグーグルグラスはウインク動作や音声指示によりカメラ撮影が可能だが、周囲からは撮影中なのか否かが一見してわからず、プライバシー侵害の恐れが危惧されていたという。

   経済や投資について報じている北米のウェブメディア「Investopedia」の記事(最終更新22年12月13日)も、グーグルグラスが「失敗」に終わった理由を分析。プライバシー侵害の懸念により、一部の飲食店ではこのグラスを着用したユーザーの入場を禁止していたという。

   記事では1500ドル(23年6月6日現在なら約21万円)という価格設定についても言及。これを購入できる余裕のある層は最先端のスマートフォンで満足しており、グーグルグラスに魅力を見出せていなかったと指摘した。

   23年6月5日に公開されたアップルの映像では、旅客機に搭乗した女性がVision Proを装着して映画を見るという使い方が紹介されているが、どの程度このデバイスが公共施設や屋外での利用を想定しているかは不明だ。

   ただ、周囲のプライバシーへの配慮なのか、ユーザーがカメラ撮影しているときには、「EyeSight」技術により撮影中だと周囲にはっきりと知らせるようになっているという。動画を見る限りは、撮影中には外部ディスプレーが点滅しているように見える。

   価格は約48万円と安くはないが、空間コンピューティングというコンセプトや「Persona」、「EyeSight」といったユニークな機能により、独自の立ち位置を確立していくのか。

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