AI「顔認証」で支払い、自動で改札 「監視手段」になる怖さの指摘も
AI(人工知能)を利用した「顔認証」の取り組みが広がっている。新型コロナウイルスによるマスク生活が緩和されるのに合わせるかのように、店舗や自動販売機での支払い、地下鉄の改札などさまざまな場所で新たな実証実験が始まっている。近未来映画のような「顔パス」が急ピッチで現実になりつつある。
手ぶらで買い物
ヤフーは2023年4月17日から、東京・渋谷区にある食料品や日用品などを扱う自社の店舗で、顔認証を使った決済システムの実験的な運用を始めた。
NHKによると、利用者はスマートフォンで顔写真を事前に登録し、キャッシュレス決済サービスとひも付けると、顔認証で買い物ができるようになる。利用者がレジで商品のバーコードの読み取りを行ったうえで、顔認証の装置に顔をかざすと、事前に登録された顔写真と自動で照合し、直ちに決済が完了する仕組みだ。
NECは4月24日、顔認証技術を自動販売機の決済に活用できるサービスを開始すると発表した。利用者は、現金やキャッシュレス決済可能なカードやスマートフォンなどがなくても、手ぶらで飲料を購入できるようになるという。
特に、工場や建設現場、高いセキュリティーが求められる施設など、物品の持ち込みに制限がある場所での利用を想定している。今後5年間で5000台の自販機への導入をめざすという。
改札はトンネル状に
「顔認証」は、すでに数年前から、スマホの本人確認、空港やオフィスの出入り、人気コンサートの入場チェックなどで利用されているが、このところ地域住民の足となっている身近な交通機関でも「顔認証」の実験が広がっている。
3月18日に開業したJR大阪駅の新地下ホームには、「顔認証改札」が登場している。産経新聞によると、改札は奥行き2メートルほどの光り輝くトンネル状になっている。ICカードで機械をタッチしたり、切符を取り出したりする必要がなく、トンネルを進むだけで改札を通過できる。顔写真の照合ができなかった人に対しては、床や側面部が赤く光って警告する。
バスでも実証実験が増えている。
Osaka Metro Group は、大阪市の生野エリアで運行しているオンデマンドバスで3月15日から、顔認証乗車の実証実験を行っている。
この実証実験では、オンデマンドバス乗降口にタブレット端末を設置し、顔認証で乗車時の本人確認をしている。
長野県のアルピコ交通と総合商社の丸紅は、高速バスの長野―松本線で、5月10日から、モニターを募集し、AI顔認証システムの効果測定を始めている。
誤認逮捕が問題に
生活のあちこちに広がりつつある「顔認証」サービス。精度が高まっているとはいえ、まだ100%パーフェクト、というわけではない。また、利用者には知らされない形の使われ方をされる心配も付きまとう。
米国では、顔認証による誤認逮捕がしばしば問題になっている。日本でも21年9月、やや事情は異なるが、JR東日本が、顔認識カメラを使って、刑務所からの出所者と仮出所者の一部を駅構内などで検知する防犯対策を実施していることが読売新聞などで報じられ、大きな問題になった。
中国新聞は21年10月26日の社説で、顔認証情報が本人の合意のないままに蓄積され、他のさまざまな個人情報とひも付けて利用されるリスクを指摘。「利便性は向上するが、私たちを監視する手段としても機能しかねない危うさがある。顔認証を規制する法律が日本にないからだ。どんな場面で利用が許されるか、政府は明確なルールづくりを急ぐ必要がある」と警鐘を鳴らしている。