群れる社長 金田信一郎さんは仕事を回し合うサークル活動に喝

   週刊東洋経済(4月29日-5月6日号)の「ヤバい会社烈伝」で、ジャーナリストの金田信一郎さんが とかく群れたがる日本の社長たちに「喝!」を入れている。

   地方取材でのこと。地元有力者の宴会で、部品メーカーの社長が金田さんのカメラに興味を示した。聞けば、趣味の写真に毎年 数千万円を投じ、工場の上階をカメラいじりに常用、経営は厳しいが撮影旅行で何カ月も会社を空けることがあるという。

   金田さんはたまらず〈会社にも力を入れましょうよ〉と諭したが、社長は意に介さず〈もっとダメな社長がいる〉と、大声で同世代の男性を呼び寄せた。〈この社長、まったく会社にいかないの。そうしたら社員が逃げちゃった〉。呼ばれたほうは顔の前で手を振りながら、〈オレは会社 潰してないぞ。潰したヤツがいるだろう〉と、別の社長の名を挙げた。

「かつて昼のテレビ番組で、芸能人が友達を紹介していくコーナーがあった。そのノリで、自分よりも『下』の社長が次々と紹介され、つながっていく。そして飲み会の席で、仕事の回し合いが始まる」

   〈うちの商品 仕入れてよ〉〈じゃあうちの保険に入ってね〉というアレだ。

「日本には260万もの会社(法人)があり、それだけ社長が存在する。だが、マスコミは上場企業をはじめとする一部の大手社長ばかり取り上げる。おびただしい『普通の社長』の実態は、ほとんど報じられない」
社長の仕事とは何でしょう?いちばんダメな答えは「資金繰り」
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昭和スタイル

   普通の社長...海外の客引きが「シャチョーさん 一杯どう?」と声をかける時に浮かべるオッサン経営者のイメージ。酒と女が大好きで、経費で落とすからカネ離れもいい。

「彼らは『社長サークル』を形成して、まるで飲み仲間のように付き合っている...昼の予定よりも、夜の社長サークル活動の方が忙しい輩も少なくない」

   これは中小企業に限った話ではない。経団連や経済同友会、日本商工会議所などの経済団体も「社長サークル」に違いはない。

「圧巻は...3団体共催の新年会だ。日本を代表する大企業のトップがそろう...意味ある時間を過ごせているのだろうか...地方都市にはこの3団体の『地方版・社長サークル』がある。さらに各地域には法人会やロータリークラブ...青年会議所も全国に700近い」

   このへんが、経営トップが「つるまない」米国との大きな違いだという。

「こうした社長サークルは、支持する政策も共通している。役員の挨拶では、地元の公共事業...の進捗状況が伝えられる...公共事業で税金を地元に引っ張りたいわけだ。昭和の経営スタイルをいまだに引きずっている」

   ただ、おいしい公共事業が減る中で「サークル活動」に距離を置く若手も増えてきたそうだ。そんな一人で、事業も好調なA社長によると、経営者の能力を一発で見抜く質問があるという。それは〈社長の仕事とは何でしょう〉である。

   いちばんダメな答えは「資金繰り」...事業や社員のことを考える余裕がない証しである。次は「トップ営業」...社長サークルに通い、仲間内で仕事を回し合うタイプだ。A氏自身は、社長の仕事とは「経営理念を社内に浸透させること」だと考える。

「理念を進化させ、戦略を次々と編み出していく。そのため現場の意見を聞き、一緒に次の一手を考える。だから、A社長が社長サークルに顔を出している暇はない」

自律的な組織に

   金田さんは日本経済新聞の編集委員や、日経ビジネス記者を務めた経済ジャーナリスト。東洋経済での本連載は始まったばかりで、今作が4回目となる。

   初回では「30年以上にわたり企業を取材してきた中で『ヤバい』と感じた会社や仕事を取り上げていく」と連載の趣旨を説明している。昨今「ヤバい」は善悪両方の意味で用いられるが、金田さんも「危ない」「すごい」の両面に光をあてるそうだ。言うまでもなく、今作のように危ない話のほうが面白い。

   わが国の社長たちが群れたがるのは、日本経済のパイが膨らみ、仲間内で仕事を回していれば会社を維持できた昭和のなごりらしい。そんな時代はとうに去り、互助サークルは崩壊するか有名無実に、まともな経営者ほど「いち抜けた」と消えていく。

   金田さんが、いわば結論として引用したA社長の信念は、「理念を社内に浸透させることこそトップの仕事」というもの。これを徹底すれば、現場の社員が自分と同じ判断を瞬時に下すことができる。つまり、組織が自律的に動き始めるのだ。

   そんなAさん、旧態依然とした社長サークルについてのコメントも歯切れ良い。

〈そもそもライバルが答えを教えてくれるわけがない。そんな甘い話 100%ない〉

冨永 格

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