「出産一時金」増額ありがたいが 新たに浮上した「保険適用」なぜ
少子化対策の一環として、2023年4月から出産一時金が増額される。これまでの42万円から50万円に増える。その一方でこのところ新たに、「出産費用を保険適用にする」という方針も浮上している。なぜなのか。
久しぶりの大幅な増額
出産育児一時金は、出産に関する費用負担を軽減するために、公的医療保険(健康保険など)から出産時に一定の金額が支給される制度だ。1994年のスタート時は30万円。2006年に35万円、09年1月に38万円、同10月に42万円になった。今回は久しぶりの大幅な増額だ。
ただし、この制度には大きな問題点があると以前から指摘されている。一つは地域によって出産費用にかなりの違いがあること。大都市の医療機関は高く、地方は相対的に安いところが多い。「42万円」では足りない地域もあれば、おつりがくるところもある。
もう一つは、出産一時金が上がると、出産費用を値上げする医療機関が少なくないこと。今回も、一時金引き上げのニュースが流れると、ほどなく費用の値上げを発表した医療機関が少なくなかった。
「たたき台」に盛り込まれる
出産一時金制度には、こうした問題があるため、以前から「むしろ出産費用を保険適用にするべきではないか」という議論があった。
そうした考え方を強く後押ししたのが菅義偉前首相だ。日本テレビによると、訪問先の那覇市内で23年3月20日、記者団の質問に以下のように語った。
「若い夫婦には、大きな負担になると思ってますので、出産費用そのものを保険適用させていただいて、そうして、個人負担分を支援していく」。出産前の妊婦の健診についても、「保険適用の対象にすべきで、自己負担分を支援すべき」。
読売新聞によると、「地域や病院によって(出産費用は)大きな差が出ている」ということも指摘した。
出産一時金のアップは、22年12月、少子化対策として岸田文雄首相が表明したもの。いざ実施の直前になって、菅前首相が新たな政策を提言した格好だ。
このため、各紙の報道によると、政府が3月末にまとめる少子化対策のたたき台にも急きょ、「将来の課題として出産費用への保険適用を検討する」(日経新聞)という方針が盛り込まれる見通しとなった。
なお、似た名前で「出産・子育て応援交付金」というのも22年度から始まっている。厚生労働省によると、妊娠届出や出生届出を行った妊婦らに、出産育児関連用品の購入費助成や子育て支援サービスの利用負担軽減を図る経済的支援(計10万円相当)などを実施する事業だ。