変われぬメディア 武田砂鉄さんは女性飛行士への質問に呆れる
週刊SPA!(3月14日号)の「ニュース カタリスト」で、武田砂鉄さんがJAXA(宇宙航空研究開発機構)の記者会見を採り上げている。宇宙飛行士の候補に選ばれた男女による、2月28日の会見である。武田さんは、日本女性では3人目の飛行士となる日本赤十字社医療センターの外科医、米田あゆさん(28)への質問にイラダチを隠さない。
「大きな実績を残した(残しそうな)若い女性を見ると、すぐに周辺のあれこれを探り、その素性で語ろうとする。まだこれをやっている」
筆者が「まだ」としたのは、すぐ前の書き出しでSTAP細胞騒動(2014年)の女性研究者への対応や伝え方に触れたためだ。あれから10年近く経つのに、メディアは何も変わってないじゃないかと。
米田さんは、家族構成や子どもの有無を問う質問者に〈プライベートのことで回答するのは差し控えさせていただきたい〉と返した。同じ記者が〈若い女性という観点から、宇宙開発にどんな貢献ができるか〉と尋ねると、〈若い女性であるという特性に対して、それを意識してというのではなく...〉と、質問者の視点をやんわり批判した。
「女性芸能人が結婚すると『なお、妊娠はしていない模様』と平気で書くメディアがまだまだ残る。伝える側が改めないと、こういった冷静な返答によって、あまりにも変わらない、変わろうとしない世界が晒されてしまう」
鋭い質問とは
「数年前、直木賞を受賞した女性の作家に対して、『旦那さんの一番好きな料理は何ですか?』『執筆活動をするにあたって、お子さんがいてよかったな、助けられたなと思った点はありますか?』と聞いた記者がいた」
武田さんは、その種の質問に戸惑う相手の表情や、会見場の冷ややかな空気を察知すべきだと考えるのだろう。確かに、ジャーナリストやレポーターを名乗る以上、それも含めてのコミュニケーション能力ではある。
「いつもビックリするのは、その質問を投げかけた時点で、相手や周囲が何らかの反応を見せたはずなのに、それを読み取らずに次の質問をしてしまうこと」
発言だけでなく、表情を読むのも質問者の仕事だ。自分の問いに対する相手の反応すべてを、最終的な記事やレポート、そして次の質問につなげなければいけない。
「どんな人に対してであっても、質問を投げかけるのってとても難しいし、クリエイティブなこと。もしかして、困惑させる=鋭い質問と思っているのだろうか。広い枠で捉えれば同業者、恥ずかしいのでさすがに気づいてほしい」
お客のレベル
「ニュース カタリスト」は、同誌の巻頭に置かれるニュースコラム。毎週3人の筆者が違うテーマで世相を切り取る。武田さんのほか、同年代の山口真由さん(元財務官僚)、石戸諭さん(ノンフィクションライター)が執筆している。
今号の武田コラムに添えられたタイトルは...〈新宇宙飛行士のお披露目で 旧態依然として変われないメディアの姿を再確認する〉
個別のインタビューほどではないにせよ、記者会見という公の場は、答える側の覚悟や器量のみならず、問う側の予備知識や力量も問われる。私の記者時代も、聞いて新情報を引き出すのが自分の仕事と思い詰め、どんな会見も真剣勝負の場と心得ていた。勉強不足で恥をかいたことも多々ある。
武田さんが指摘する、くだらない質問は珍しいことではない。それは限りある会見時間の浪費であり、他の質問者の迷惑ともなる。
過去最多4127人から選ばれた宇宙飛行士の候補者。米主導の有人月探査「アルテミス計画」により、初めて月面に降り立つ日本人になるかもしれない男女である。まずは性別を超えて、心構えや抱負を問うべきだ。生い立ちやキャリアを尋ねる過程で、自ずと私生活に触れる展開は「あり」だとしても、いきなり「お子さんは?」はあり得ない。取材手法としても稚拙だと思う。
武田さんは、とりわけ若い女性への対応を問題視する。それなりの覚悟や準備がある芸能人ならまだしも、たとえば著名になる前の一般人に「好きな男性のタイプ」を聞く必要はない。さすがにスリーサイズを聞く馬鹿は昔話になったが...。
会見での質問は、そのメディアの客(読者や視聴者)を意識しており、質問者が描く客先の関心を反映した内容となる。質問のレベルは、彼や彼女が考える「お客のレベル」なのだ。だから武田さんのように、真面目に怒ったほうがいい。
冨永 格