ランニング中いきなり腹痛のわけ ちょっとハードな運動の落とし穴
【連載】お腹トラブル天国と地獄 ~運命の選択~
40代男性の誠さんは、体調管理のためにランニングを始めました。運動経験はほとんどありませんでしたが、週2~3回の頻度で無理なく続けていると、だんだんとランニングが楽しくなってきました。2か月過ぎると、30分程度は走り続けられるようになりました。
「今日は少し頑張ってみようか」。走る距離を伸ばしたある日、途中で突然お腹が痛くなってしまいます。今までこんなことはなかったのに......。
距離を伸ばして走った日に
距離を伸ばして走っていた誠さん。いつもより汗をかくので、こまめに水分補給を意識しました。60分ほど走ったところで、ちょうど1リットルほどの水を飲み切りました。
その後、ペースを落としつつ帰路につくと、お腹に刺すような痛みを感じました。様子を見ながら走り続けていると、だんだんと痛みが強くなり、お腹のハリを感じるように。不安を感じながら、最後は歩いて帰宅しました。その後、自宅で安静にしていると、痛みもお腹のハリも解消しました。
今後、誠さんがランニング中の腹痛を起こさないために、どんなことに気をつければ良いでしょうか。
運動時間が長くなると
誠さんの腹痛は、ランニングによる腸をはじめとした内臓の虚血によると考えられます。長時間のランニングで内臓の血液量が低下したために、腹痛が発生してしまいました。
運動すると、体を動かすために血液は筋肉へ集中して巡るようになります。その分、本来なら内臓へ送られるはずの血液量は減少。血液とともに送られる酸素量も減少します。すると、内臓の働きが低下して、さまざまなトラブルを引き起こす可能性があるのです。
2012年にオランダのリンステル・ステーゲ医師が発表した論文によると、安静時を100%とした内臓(肝臓)の血液量は、少しきつい程度の自転車運動を行うと、20分で全体の約60%、60分で約80%減少することがわかっています。
誠さんのケースでは、慣れない距離を突然走ったことで、内臓の虚血と酸素不足によって腸の動きが停滞。ガスがたまり、お腹のハリと腹痛に繋がってしまいました。
ランニング中の水分補給は、60分で1リットル弱程度が理想的と言われています。今回、誠さんの水分摂取量は適切だったと言えるでしょう。食後すぐに走ると腹痛を起こすことがあるので、水分のとりすぎでも腹痛が起こるイメージがあります。しかし、水分は適切な頻度で摂取すれば腹痛には繋がりません。むしろ、水分不足が内臓虚血の原因となる場合があるため、こまめに水を飲みましょう。
運動は大切だが負荷には注意
ランニングをはじめとした運動習慣は、体調管理に重要な要素のひとつです。しかし、無理をして高負荷の運動をすると、誠さんのようなお腹のトラブルを起こしてしまうことがあります。適切なケアをせずに高負荷トレーニングを続けると、内臓の炎症の原因にもなるため注意が必要。さらに悪化すると、腸の透過性が必要以上に高くなる「リーキーガット症候群(腸もれ)」になり、全身の不調につながる恐れがあります。
腸内環境を整えるために毎日体を動かすなら、ストレッチやウオーキングなど負荷の低い運動を毎日行うのがお勧めです。
(文・イラスト:長瀬みなみ)