メタバースの「スパ」でととのう 湯気もリアル、没入感たっぷり世界の作り方
無料で使えるメタバース(仮想空間)プラットフォーム「VRChat」(VRC)には、個人ユーザーが制作した「ワールド」(メタバース内の世界)が多数公開されている。訪れたユーザーは3D空間内のゲームで遊んだり、写真撮影を楽しんだりできる。
VRChatユーザーの「みきねる」さんは2023年1月25日、「Project SPA」というワールドを一般公開した。ホテルやスーパー銭湯の大浴場のような空間だ。ワールドづくりのモチベーションや、意識しているポイントについて、本人を取材した。
現実の「あるある」を詰め込む
「Project SPA」に入ると、まず脱衣所が目の前に広がる。衣服用のカゴを備えた棚、鏡の付いた洗面所、鍵のささったロッカーや体重計と、公共の浴場でよく見かけるアイテムが3Dモデルとして備えられている。
リアリティーや没入感のある空間を作るうえで、「『あるある』を詰め込むことが大事」とみきねるさんは話す。現実の施設にある細かい要素を取り入れ、3D上で表現して、目に入る「情報量」を増やすようにしているのだ。
Project Spaはもともと、「電脳の湯」という、VRChatユーザー同士で開催している雑談イベント用に作ったワールドだ。実はサウナ室と露天風呂も存在するが、一般公開版「Project SPA」だと「清掃中」との看板が掲げられて立ち入りできない。今回はサウナにも入らせてもらった。
記事に掲載した写真ではわかりづらいが、サウナ内に入ると視界が白く曇り、ムワッとした熱気が伝わってくるかのようなリアルな演出がなされている。湿気の存在をユーザーに感じさせるため、照明の光が空気中の水分に反射する様子も表現している。細かい部分だが、没入感を持たせる工夫だ。
「例えば現実でサウナへ行ったとき『自分は今サウナに居る』という実感を、人間は何から得ているのか」。みきねるさんは、外出中や旅行中に訪れた施設や街の風景を注意深く観察し、「なぜそう見えるのか」を注意深く観察するようにしている。サウナの演出もこうした現実での観察を経て再現している。
観察により得た細かい視覚情報をCGで再現し、「『その場所にいる感』を演出するよう意識」しているとのことだ。現実のガラスを例にとると、完全に無色透明なわけではなく、ガラス同士を重ねるとやや緑色がかって見えることが多いという。VR上のサウナ室のドアのガラスもリアルにするため、ふちの部分を少し緑色に設定している。
フレンドの力も借りつつ
浴場エリアでは、それぞれの浴槽から湧き上がる湯気にこだわりが。「温度が高い風呂では『湯気多め』になる表現設定をしています」とみきねるさん。46.8度という設定の風呂ではモウモウと蒸気が立ち、近づくだけで「暑苦しい」と錯覚すら感じる。逆に水風呂では湯気は出てこず、ひんやりとした印象だ。
ワールド全体の形状といった基本設計は、みきねるさん自身が手がける。その中に「情報」を詰め込むうえで、細かい部分ではインターネット上で販売されている3Dモデルも活用。市販されていない物は自身が、あるいはフレンド(VRChat仲間)が制作するケースもある。例えば脱衣所のイスはフレンドの「まさし」さんが、温度計は「らぼ」さんが作った。
「人が集まる場所を作るのが好き」
みきねるさんは、VR関連コンテンツ作りが本業だ。ゲームエンジン(ゲームを制作できるソフトウエア)「Unity」を操作する「エンジニア」をしている。
新型コロナウイルス禍で在宅勤務を行うようになったなか、2021年8月からVRChatにのめりこみ、自然に「作りたい」とワールド制作をするようになった。VRChatでワールドを作るには上述の「Unity」の操作が必要だが、もともと仕事柄その知識もあった。
「Project SPA」のほか、ピアノコンサートホールのようなワールド「Project SmallMusicSpace」や、旅館を模したワールド「Project Wabisabi」など、23年1月31日時点で9か所のワールドを一般公開している。
特に「作っていて本当に楽しかった」のが、「敗北居酒屋かがさき」というワールドだ。もともと、メタバースイベントに入場可能な人数の制限で入れなかった人など、「何かに負けた人」が集まるというコンセプト。自身が作ったワールドのうち、最も他のユーザーに利用されている空間とのことだ。
みきねるさんは、「人が集まる場所を作るのが好き」と語る。自分のワールドの体験を通して他人が喜んだり、作りたいものが形になったりするとうれしいとのことだ。