VTuberが事務所を移籍する 実は一筋縄ではいかないと専門家が指摘
アバターの姿で動画配信活動などを行う「VTuber」(バーチャルYouTuber)。事務所(VTuber運営会社)に所属しているVTuberが、「移籍」する事例がある。VTuber事務所「774 inc.」を運営する「774」(東京都新宿区)は2023年1月26日、所属VTuber「小森めと」さんが他社に移籍すると発表した。
移籍先は、eSportsで活躍するVTuberグループ「ぶいすぽっ」だ。こちらはバーチャルエンターテイメント(東京都港区)が運営している。ツイッター上では「(VTuberが)移籍加入って珍しい」「今までありそうでなかった」といった反応が出ている。
「本人がやりたいことができるように」
小森めとさんについて774の発表によると、「本人から移籍の可能性について相談があり、ぶいすぽっ!運営様と相談をした上で本人がオーディションを受け、合格」。その後、両運営で話し合いをしたところ、移籍が決まった。「タレント本人がよりやりたい事ができるように考えた結果の判断となりました」とのことだ。
VTuberがほかに「移籍」をした例を調べると、歌手活動をしているVTuber「アオノユウキ」さんが該当する。
もともとは「蒼乃ゆうき」という名前で、VTuberプロデュース会社「Pictoria」(東京都中央区)に所属して活動していたが、2020年5月4日、Pictoriaからの脱退を発表した。
同日のアオノさんによるツイッター上での説明によれば、本人は「歌姫」となることを志していたが、歌手活動をメインとして取り組むことができない状況だった。同じ投稿で、「信用できる移籍先で活動は続けていきます」と語っていた。同月25日に音楽事務所「447 Records」への移籍を発表し、以降は同事務所で活動している。
小森めとさんのように、VTuberが他社や他事務所に「移籍」する事例は増えていくのか。デジタルハリウッド大学でVR、アバターによるコミュニケーションを研究している茂出木謙太郎准教授に取材した。話によると、VTuberの移籍は一筋縄ではいかないようだ。
アバターという財産をどうするか
例えばVTuberとして利用しているアバターと、「中身」(アバターを操作し喋る人間)がセットになって移籍するパターン。
アバターのIP(知的財産)を価値化して運営する活動は、各運営会社にとって事業の基本となる重要な要素だ。そのため、移籍するにはVTuber側と事務所間でアバターの権利関係について「詳細な調整が必要」だと茂出木氏は指摘する。
一方でアバターの権利は事務所が所有したまま、「中身」のみが移籍するパターンを想定すると、こちらも問題が発生し得るという。
VTuberとして活動し人気を集めた実績のあるアバターは、「中身」の交代がファンから許されない傾向にあり、「多くのVTuber事務所がこれまで炎上を経験」している。つまり「中身」の人間だけが移籍をしても、事務所側にとってはアバターのIPが価値を失い、痛手だ。
移籍によって、事務所はアバターというIPの価値を失う問題。これを「どのように決着するかが(VTuberが移籍するうえで)カギではないでしょうか」と茂出木氏は話す。
今後は技術の進歩により、VTuber側が自前でアバターのデザインやモデルデータを用意し、現実のタレントのように事務所に所属することが可能になると茂出木氏は推測する。
そのときにこれまでのVTuberプロデュース会社とは異なる運営方法、例えば現実の芸能人が事務所と交わすマネジメント契約のような形式でVTuber活動を行うケースが出てくれば、事務所とVTuberの関係性は変わっていくのではないかと語った。