鳥インフルエンザ「1000万羽」超え 症状出なくても殺処分するのはなぜ
鳥インフルエンザが全国で猛威を振るっている。2022年秋から23年1月10日までの累計で1000万羽以上の鶏が感染、殺処分された。国内では過去最多の感染数だという。鶏卵価格も値上がりし始め、国民生活にも影響が及びつつある。
鶏舎は金網などで囲われているはずなのに、なぜ全国各地で同時多発的に感染が広がるのだろうか。そしてなぜ、殺処分する必要があるのだろうか。
渡り鳥は直接鶏舎に入っていないが...
鳥インフルエンザは2010年から11年にかけて、宮崎県でも多発した。日経メディカルによると、同県は、農政水産部の畜産・口蹄疫復興対策局が中心となり、専門家らを交えた検討会を開催し、11年7月25日付けで「宮崎県における高病原性鳥インフルエンザの感染経路等に関する検討報告書」をまとめた。
それによると、宮崎県に鳥インフルエンザウイルスを運んできたのは、「渡り鳥を含む野鳥と考えられる」と推定。
ただし、渡り鳥が直接、鶏舎に侵入した形跡はない。調査すると、鳥インフルエンザが発生した農場では、防鳥ネットの破れや鶏舎壁の隙間が確認され、さらに野生動物が侵入可能な網目サイズの金網が設置されていたことも明らかになった。こうした環境面の不備から、「ネズミなど野生動物が侵入した可能性はあった」。つまり、渡り鳥の糞便を介して、野生動物がウイルスを鶏舎内に持ち込んだ可能性はあると指摘している。
加熱すれば感染性がなくなる
では、鳥インフルエンザとはどんな病気なのか。
農林水産省のウェブサイトによると、鳥インフルエンザは、A型インフルエンザウイルスが引き起こす鳥の病気だ。
家畜伝染病予防法では、鳥インフルエンザを家きん(ニワトリ、七面鳥等)に対する病原性やウイルスの型によって、「高病原性鳥インフルエンザ」、「低病原性鳥インフルエンザ」などに区別している。
「高病原性」が発生すると、多くの鶏は死んでしまう。「低病原性」の場合は、症状が出ないケースもある。
国内の家きん飼養農場で「高病原性」や「低病原性」の鳥インフルエンザが発生した場合、家畜伝染病予防法に基づき、発生した農場の飼養家きんの殺処分、焼却又は埋却、消毒、移動制限など必要な防疫措置がとられる。
このため、発生が確認された農場の家きん、鶏卵などが市場に出回ることはない。これらの防疫措置は、国内の生きた家きんがウイルスに感染することを防止することを目的としているという。
鳥インフルエンザウイルスは加熱すれば感染性がなくなる。万一、食品中にウイルスがあったとしても、食品を十分に加熱して食べれば感染の心配はない。
国内ではこれまで、人が家きん肉や家きん卵を食べて、鳥インフルエンザウイルスに感染した例は報告されていない。
アジア、中東、アフリカで人が感染
だが、海外では人への感染例が報告されている。そのことは厚生労働省のウェブサイトに詳しい。
「鳥インフルエンザとはトリに対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスのヒトへの感染症です」
「ヒトは、 感染した家きんやその排泄物、死体、臓器など に濃厚に接触することによってまれに感染することがあります」
こちらでは、「ヒト」への感染があることが重視されている。感染症法では、「A(H5N1)」及び「A(H7N9)」の鳥インフルエンザは 2 類感染症に、それ以外の亜型の鳥インフルエンザは 4 類感染症に位置づけられている。
「A(H5N1)」の場合、高熱と急性呼吸器症状を特徴とし、下気道症状を併発。重症の肺炎が見られることがある。呼吸不全が進行した例では、びまん性のスリガラス様陰影が両肺に認められ、急速に急性呼吸窮迫症候群の症状を示す。発症から死亡までの中央値は11日。進行性の呼吸不全等による死亡が多くみられる。ヒトでの症例はアジア、中東、アフリカを中心に報告されている、と記されている。
日本では感染例はないが、感染したら厄介な病気だということがわかる。
最大級のパンデミックの恐れ
岡田晴恵・白?大学教育学部教授の著書『知っておきたい感染症―― 21世紀型パンデミックに備える』 (ちくま新書)は、鳥インフルエンザの人への影響について、さらに詳しく書いている。
それによると、「H5N1型鳥インフルエンザ」は、人類史上最悪のパンデミックを引き起こす可能性がある感染症だという。
1997年から2015年までにアジアなどで散発的に発生し、人の感染者844人、死者449人が報告されている。この数字からも分かるように、最大の特徴は、症状が重篤で致死率が高いこと。H5N1型でパンデミックが起きた場合、2億人前後の死者が推定されているという。
鳥インフルエンザは、もともとは鳥を宿主とするので人には感染しにくい。ところがインフルエンザのウイルスは、遺伝子の突然変異で、その性質を変化させやすい性質を持つ。変異は一定の割合で起きる。鳥の間で感染が拡大すれば、ウイルスが増殖するから変異ウイルスも増える。そして、「人型」のウイルスが出現することがある。そうなるともはや鳥型のウイルスではなくなり、人に感染する「新型インフルエンザウイルス」になる。人はこのウイルスに対する防御免疫機能を持っていないので、感染すると重症化しやすいという。
強毒型に感染した家禽は1日か2日で100%死ぬ。しかし不思議なことに、このウイルスの「運び屋」といわれる水禽類(カモ、アヒル、ガン、ハクチョウなど)の多くは感染してもほとんど症状が出ないのだという。その理由はわかっていないそうだ。