声優の武器は「声」だけじゃない ベテランが語る自主企画の魅力
【作リエイターズアトリエ(通称「作リエ」)】
テレビアニメ「ポプテピピック」のゲームパートを描き、映像制作やイベント主催など、フリーランスでマルチに活躍する山下諒さん。隔週水曜夜、各分野で活躍中のゲストクリエイターや美大生を招いて、「創作」をテーマに、ツイッターの「スペース」や「オンラインセミナー」で語らう企画が「作リエ」だ。
連載では、スペースで出た話題から、エッセンスを抽出してお届けする。未来のゲストは、今この記事を読んでいるあなたかも?
第8回のゲストは、声優・俳優として活躍する岡本麻弥さん、福宮あやのさん。テーマは「声優の武器は声だけじゃない 『自主企画』が世界を広げる」だ。スペースアーカイブはこちらから。
「死ぬかも...」と思いつつ、米国へ
「機動戦士Zガンダム」のエマ・シーン役などで知られる、岡本さん。高校入学と同時に「勝田久 声優学院(当時は声優教室、2015年閉院)」に通い、高校での演劇部と並行して役者・声優の勉強を始めた。
思い立って1999年から渡米し、俳優養成学校で語学と演技の勉強に明け暮れた。米国では6年半ほど生活したが、その間も日本で定期的に行われる「サクラ大戦 歌謡ショウ」出演のためにたびたび帰国。ニューヨークで2001年9月11日に起きた「アメリカ同時多発テロ事件」に遭遇したり、02年にはロサンゼルスに飛行機で向かっている間に、米軍がアフガン戦争の最中に爆弾投下し、超厳戒態勢の空港へ降り立ったりと、激動の時代を肌で感じ、同時に「外から日本を見る」貴重な日々を過ごして帰国した。
提供:岡本麻弥さん
岡本さん「国が違えば、人の生き方も感覚も違う。違う文化に触れるのは良いものです。死ぬかもしれないと思って渡米しましたから、死なずに帰ってこられただけでも儲けもの」
現在は、自主企画「雷神八系ーZANAMーファム・ファタール~運命の女」に注力している。「90年代に大ヒットした」設定の、日本神話をベースにした「架空アニメ」プロジェクトだ。「あんなキャラいたよね」と過去を思い出す体で、新キャラクターを作っている。
岡本さん「イラストとキャラクターデザインをマンガ家・イラストレーターの麻宮騎亜先生、シリーズ構成を大沼弘幸さん、本編出てないのに外伝の話をライターの雅やさん、メカ設定協力を俳優の泰勇気さんにお願いしています」
山下さん「自主企画でやる規模じゃない!」
「雷神八系ーZANAMーファム・ファタール~運命の女」キービジュアル(イラスト: 麻宮騎亜先生)
培ってきた人脈を頼りにしつつ、岡本さんも声優・俳優の枠を超え、世界観や設定考案、作詞、インタビュー、プロデュースなど幅広い取り組みに注力してきた。
山下さんから「声優として企画の立ち上げをやってみて、何か変わったことはあるか」と質問を受け、岡本さんは、CDドラマ作りに際して脚本を書き、声優にスタジオで声を吹き込んでもらった話を例に出した。思い描いていたイメージと違う演技を目の当たりにしたことで、「ああ、こういうのもあるか!」と世界が広がる感覚を得たという。
岡本さん「頭の中だけにあるものって、結局つまらないんですよ。だって自分で全部わかっているから。思いつかなかったもの、知らないものを人が自由に出してくれるのが面白い」
多くの人と関わり、一役者でなく制作側として作品に携わったことが、「制作側に期待されている演技ができているか気にするのではなく、役者として堂々と、自分が表現するものをしていけばいい」という思いを強める結果につながった。
コロナ禍で「仕事ゼロ」のピンチから一転
福宮さんもまた、自主企画に精を出す一人だ。原点は2014年に立ち上げた「team.鴨福」。ピアニストによる生演奏、漫画家によるイラスト投影、そして福宮さんによる歌唱と朗読というスタイルで公演してきた。
しかしコロナ禍で「team.鴨福」の活動はじめ、芸能系の仕事が全部なくなった。追い詰められた中で発見したのが、文化庁の助成金だった。
福宮さん「文化芸術活動の継続支援事業ですね。申し込み締切直前に、役者仲間3人と自主映画の企画を立ち上げて、何とか書類作って滑り込んで。気づけば、堤幸彦監督がメガホンを取ってくれることになり......」
仲間の一人が、堤監督の映画によく出演していた縁だ。「女優が自分で映画をつくるなんて面白いじゃないか、と思ってくれたみたいで」と福宮さん。信じられない気持ちだった。
福宮さん「そこからはもう、雪崩のような勢いでした。(堤監督は)クリエイティブにかけてはもちろん一流なのですが、人を巻き込むという点においてもすごかった」
山下さん「その過程も、映画にして良いくらいですね」
初めて顔合わせをしたその場で、堤監督は脚本家に電話を掛けてオーダー。脚本の初稿完成を待つ間に、カメラマンはじめ制作スタッフに協力を呼びかけたという。
福宮さん「スケジュールに余裕がなく、予算も潤沢にあるわけではないので、撮影場所はスタジオだけで、いわゆる会話劇という形式です。70分の映画を丸2日で撮りました」
そうして完成したのが、「精子バンク」をテーマに、1人の男と同時期に交際していた3人の女性が激しいやり取りを繰り広げる映画「truth~姦しき弔いの果て~」だ。
「truth~姦しき弔いの果て~」(監督:堤幸彦)より(c)2021映画「truth~姦しき弔いの果て~」パートナーズ
映画への出演経験が「それまでほぼなかった」福宮さんにとって、映像現場における作法やルールを知らないまま撮影に挑む不安はあった。しかし「全てが新しかった」。
福宮さん「映画作りというと、これまで私が携わってきたのは吹き替えの仕事。こうして実際に一から作り上げるまで、音がどう処理され、映像に合わさるのか未知でした。パッケージングして、プロデュースもして、新しいことしかなくて楽しかった」
山下さん「(新しいことを)純粋に楽しめたのはすごいですね!」
福宮さん「でも、女優3人でめっちゃケンカもしましたよ(笑)作品をどうプロモーションしていこうか、とか。大事にしているものがそれぞれ違うし......」
「そこがでも面白いんだよね、ものづくりって」と岡本さん。誰もが真剣に作品を良くしようとしているからこそ、時にぶつかることがあるのも、創作の醍醐味だ。
岡本さん「苦しい、きつい、時間がない、ってことが、やがて、楽しい、うれしいにつながる。喜んでくれる人がいる、楽しんでくれる人がいると思うから、頑張れるんだもんね」
福宮さん「作っている間も自分の中で盛り上がりはありましたが、今年の1月7日に劇場で作品を皆さまに観ていただけた時の喜びがまた。違った感情がぐっと来ましたね、本当」
「ワクワク」が次のクリエイティブを呼ぶ
スペース終了後の三人に、話を振り返ってもらった。山下さんは、ベテラン声優二人が「本業とは別のジャンルで、自己表現を怠らず常に前を進んでいる」点に刺激を受けたそう。
山下さん「その立場にならないとわからない苦悩や意外な考えは、実際ある。自分も役者をかじっていたからこそ、声優・ナレーターの気持ちを汲み取りつつできている(...ハズ)実感がある。これからも臆せず、色々なクリエイティブに挑戦しようと思う」
スペース終盤で、「生みの苦しみはあっても、完成させて人に届けられる『ワクワク』があるから、また次の創作に取り組める」と語り合っていた、岡本さんと福宮さん。こんなコメントを寄せてくれた。
岡本さん「みんな同じような苦労をしてるんだな、それでもやっぱり創作活動が好きでたまらないんだなあ、とたくさんの勇気をもらいました」
福宮さん「良い意味で映画を過去の事として整理して話ができたので、新鮮でした。過去を整理すると、自分の『芯』が見えますね」
二人は、岡本さんが声優の甲斐田裕子さんらと共に立ち上げた「VOICTION」というグループに所属し、2023年10月に施行が予定されている「インボイス制度」(正式名称:適格請求書等保存方式)への反対運動にも注力している。「自ら考え、動く力」はあらゆる場面で有用だと、考えさせられる。
次回の作リエは、11月2日予定。