安倍氏の国葬で弔問外交「コスパいい説」を問う 国のトップの参列は少ないが
安倍晋三元首相の国葬が2022年9月27日に行われる。前後して、岸田首相による「弔問外交」も活発に繰り広げられる。多数の国々の元首級と一度に「首脳外交」が出来る貴重な場との見方もある一方で、今回は、現職の元首級の来日が少ないことなどから、「外交成果は期待できない」との指摘もある。
30以上の個別会談
NHKなどによると、国葬に参列する海外の代表団は190以上。特に接遇を要する首脳級などの代表団は50程度と見込まれている。松野官房長官は21日の記者会見で、岸田首相と国葬のために来日する各国首脳らによる個別の会談は30を超える見通しだと説明した。
国葬費用は当初、約2億5000万円とされていた。その後、警備費用が8億円程度、海外要人の接遇などの費用が6億円程度になることが明らかになり、全体費用は現段階で16億円を超える見込みだ。海外要人の来日費用は各国負担とされている。
このため、「16億円」をどうみるかについては見方が分かれている。
「2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)」創設者で実業家の「ひろゆき」こと西村博之さんは、「安倍元首相の国葬の是非の価値観は置いといてコスパは良いです」「岸田首相が外国首脳と会談すると、政府専用機、随行職員の滞在等の費用は、1国当たり1億円以上掛かります」「多数の外国要人が来日してくれて費用が掛からず、さらに宿泊・滞在費を日本に落としてくれます」と、2022年7月15日にツイート。コスパの良さを強調している。
G7の元首はカナダ首相のみ
しかし、実際には「元首級」の来日が少ない。日本テレビによるとG7(主要7か国)の首脳では、カナダのトルドー首相ぐらい。米国のバイデン大統領は参列せず、ハリス副大統領が代理。トランプ前大統領や、オバマ元大統領も参列しない。
仏のマクロン大統領は21日時点で参列者に名前が挙がっておらず、サルコジ元大統領が参列予定。独のメルケル前首相も21日時点で参列者に名前がなく、英国もメイ元首相。韓国からは、尹錫悦大統領は参列せず韓悳洙首相が参列する予定だ。
エリザベス女王の国葬では、米バイデン大統領ら各国トップが大挙して訪英した。日本からは天皇皇后両陛下が参列した。
今回の安倍氏の国葬では、今のところ現職の人よりも元職の首脳が目立っている。各国の元トップや準トップとの会合では、顔合わせにはなっても、正式には「首脳外交」と言えない面があるのも確かだ。
エリザベス女王国葬時はどうだった
そもそも「弔問外交」自体が、成果が期待できないものだとする見方もある。ジュネーブ軍縮会議代表部大使、日朝国交正常化交渉政府代表などを歴任し元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏は、朝日新聞のインタビューでこう指摘した。「直接あいさつをし、握手を交わすことが『外交』であるなら、一定の成果はあるでしょう。しかし、具体的な外交の成果としては、ほぼ皆無だと思います」。
同氏によれば、外交には緻密な準備が必須だ。一方で、葬儀というのは基本的に不測の事態。葬儀に参列する国は、どのような弔意を表明するのかについては準備するが、「葬儀をきっかけに外交上の成果を上げようと準備をしているととらえられれば、それは儀礼を欠いているとして非難の対象になりかねません」と解説する。
エリザベス女王の国葬では、多数の元首が集まり、懇親の席は設けられた。しかし、トラス英首相が実際に会談した首脳は、カナダなど英連邦王国以外では多くはなかった。読売新聞によると、バイデン大統領との初の首脳会談もこの時は見送り。実現したのは9月21日、国連総会が開かれたニューヨークにおいてだった。