コロナ第7波は重症者少ない? 数字では見えない「カラクリ」が怖い
新型コロナウイルス第7波の感染拡大が続いている。とりわけ1日当たりの死者が、じわじわ増えている。2022年8月23日には343人を記録、過去最高となった。
一方で重症者は、第6波と比べると激減した状態だ。このギャップはなぜなのか。
「独自基準」の人数に切り替え
第6波では、ピーク時に重症者は全国で1400~1500人が続いた。ところが、第7波ではおよそ4割の600人台にとどまっている。一方で死者の数は、どちらも200~300人台が続いている。同じオミクロン株による感染拡大にもかかわらず、大きな差がある。
信濃毎日新聞が8月22日、この問題を掘り下げている。それによると、実はこれには統計上のからくりがあるという。第6波ピーク時に全国の半数以上を占めていた大阪府の重症者数が、4月から独自基準の人数に切り替わり減ったことが大きいという。
厚労省が定めた国の基準は、重症者を(1)人工呼吸器を使用、(2) 人工心肺装置ECMO(エクモ)を使用、(3)集中治療室(ICU)や高度治療室(HCU)に入室――などのいずれかに当たる患者と定義。これに対し、府独自の基準では重症病床でないICUやHCUに入る患者を含めていない。
第6波以前から独自基準で集計されてきた自治体もあるため、全ての都道府県に国の基準を適用して全国の重症者数を比較した場合、第6波のピークが2140人だったのに対して、今月17日時点で1936人と第6波の9割に達するという。同紙は「第7波だけ特別に死者に比べて重症者が少ないわけではなさそうだ」と解説する。
さらに同紙は、もう一つの問題として、オミクロン株の流行で、国の「重症」の定義にも当たらないまま死亡する患者が増えていることも指摘している。
重症者が亡くなるのではない
TBSも8月19日、同じ問題を取り上げている。医療現場の感覚として、ひなた在宅クリニック山王の田代院長は「爆発的な感染者が急増により、早期検査・診断・投薬ができず、悪化して亡くなるケースが多い」と語る。
埼玉医科大学総合医療センター岡秀昭医師は、「重症者が亡くなるのではなくて、軽症・中等症の方が新型コロナウイルスにより持病が悪化して亡くなっている。これまでの重症者の定義をオミクロン株にあったものに変えるべきでは」と提案する。
23日のスポニチアネックスによると、「インターパーク倉持呼吸器内科」(栃木県宇都宮市)の倉持仁院長も同日、BS-TBS「報道1930」にリモートで生出演し、新型コロナウイルスの重症度の現在の分類に疑問を呈した。
倉持氏によると、「重症という定義は、いわゆる呼吸不全を起こして、呼吸ができなくなるから人工呼吸器やECMO(人工心肺装置)が必要だった」。それが、オミクロン株では状況が違うという。「今はそういう症例が非常に少なくなっていまして、どちらかというと全身状態が悪くなって、自宅待機している間、施設にいる間に衰弱して、人工呼吸器をする間もなく亡くなってしまう方が非常に多い」と指摘した。
国際医療福祉大学の松本哲哉主任教授も、「今の定義は、オミクロン株の患者さんに対しては正直言って当てはまらないと思います」「呼吸器の基準だけで評価したら見誤ってしまう」と語った。
すでに「新型コロナ肺炎」ではない
オミクロン株では、死者の数に比べて重症者数が少ないという問題は、すでに第6波の時から指摘されていた。
NHKのまとめによると、第6波では22年2月17日、死者271人に対し、重症者は1469人。ところが、デルタ株による第5波で死者が最も多かった2021年9月8日、死者89人に対し、重症者は2211人だった。第6波では70代以上の死者が9割を占め、第5波の7割を上回っていた。
デルタ株は「肺炎」という形で全世代を襲った。しかし、オミクロンは「肺炎」がなくても、高齢者にとっては「持病の悪化」というリスクが高い。しかもそれは短期間で進行する。その結果、「重症者」として把握される前に亡くなっている高齢者が多数存在している可能性があることが分かっていた。
このため、東京大学大学院情報学環准教授の伊東乾さんは2月10日、「実は死亡者の多いオミクロン株、軽症・弱毒は大うそ」という論考をネットメディア「JBpress」で公開。
オミクロン変異新型コロナウイルス感染症は、すでに「新型コロナ肺炎」ではないと分析し、「この病気は、生活習慣病など多様な合併症、既往症と相俟って、第5波以上に高い致死率を示しており、永続する後遺症も懸念される、別種の疾病になっている」と指摘。
したがって国は、新型コロナウイルス感染症の診断基準を、抜本的に再検討する必要があると強調していた。