東京五輪「負の遺産」赤字が心配 それでも「札幌に冬の五輪を」の声
東京オリンピック・パラリンピックを運営していた組織委員会は2022年6月21日、開催経費が総額1兆4238億円に上ったと発表した。橋本聖子会長や小池百合子都知事は、コロナ禍の中で世界が一つになって開催された東京大会の「レガシー(遺産)」を強調した。
しかし、今後いくつもの競技施設が赤字を出し続け、「負のレガシー」として残ることも指摘されている。
開催経費は約2倍に
テレビ朝日によると、五輪のために東京都内に新設された競技場は、国立競技場を含めると7つ。建設費用は2944億円に上る。
収支を見ると、例えば国立競技場は2022年度だけで、維持管理費などで約13億円の赤字の見通し。さらに、土地の賃借料も11億円ほどかかる。
競泳の会場となった東京アクアティクスセンターは、都の試算では毎年6億4000万円の赤字になる見込み。
他にも、カヌー・スラロームセンターや大井ホッケー競技場など、有明アリーナを除く、5つの施設で毎年、大きな赤字となる見込みだという。
五輪開催に立候補した時の予算は7340億円だったが、最終的な開催経費は約2倍に膨らんだ。
大会施設は閑散
五輪のたびに指摘されるのが、「負のレガシー」だ。最近の五輪では特に目立つ。
日刊スポーツによると、2016年のブラジル・リオデジャネイロ五輪では閉幕1年後も、競技施設のほとんどは有効利用されていなかった。選手村はゴーストタウンになり、複数の五輪公園は閉鎖されたまま。
毎日使われている唯一の施設は五輪のゴルフコースだが、利用料が高く、富裕層しか使えないという。
18年の韓国・平昌五輪でも「負の遺産」が問題になった。インバウンドのニュースサイト「訪日ラボ」は、「観光」の側面から、平昌のその後を報告している。21年1月4日に更新された記事によると、同五輪では6つの競技会場と開閉会式用のスタジアムを新設するのに加えて、6つの既存施設を改修するのに合計約885億円かかった。
さらに、ソウルから大会開催地・江陵への高速鉄道などのインフラ整備に約1兆1000億円を投じたにもかかわらず、江陵の大会施設は、今は閑散としている。
「大会をきっかけに地域活性化を見込んでいた江陵は、いまだに観光地としての賑わいはみられません」と報じている。
大会招致の費用の帳簿は焼却
日本では1998年の長野五輪の記憶がよみがえる。弁護士ドットコムの記事によると、長野市が五輪のために借り入れた額は利息を含めて約694億円となり、その償還は20年後の2018年度までかかった。
特に「負の遺産」として知られるのが、ボブスレー施設「長野市ボブスレー・リュージュパーク」(スパイラル)だ。もともと競技人口が少なく、その維持について長野市議会でも度々、問題視されてきた。結局、2億円を超えるという多額の維持管理費を理由に、長野市は2017年4月、競技施設としての利用を断念した。
NHKによると、長野五輪では大会後に、招致委員会の使途不明金も明るみになった。大会招致のために使われた費用を記録する帳簿が焼却され、実態はうやむやに。県の調査委員会は、IOC(国際オリンピック委員会)への過剰接待や9000万円の使途不明金があったと認定した。
JOC(日本オリンピック委員会)と札幌市は現在、2030年冬季五輪・パラリンピックの札幌市招致に向けて準備を急いでいる。北海道新聞社の今年4月の世論調査によると、札幌市民は「開催反対」が57%と過半を占める。札幌市は極力既存施設を利用することで、市民の理解を得ようとしている。