知床半島は「海の難所」 63年前には85人遭難の大事故
北海道・知床半島沖で2022年4月23日、乗客乗員26人が乗った観光船「KAZUⅠ」(カズワン)が消息を絶ち、救難活動が続いている。現場付近は、テレビなどでもしばしば紹介されている観光コースだが、気象状況が変わりやすい海の難所としても知られていた。
63年前には、操業中の漁船15隻が沈没・転覆し、死者・行方不明あわせて85人という大惨事が起きたこともあった。
「だし風」が吹く
海上保安庁のウェブサイトによると、知床半島周辺海域は,風向きにより半島を境として,オホーツク海側と根室海峡側とでは海上模様が大きく異なる。オホーツク海側に位置するウトロ(宇登呂)周辺では,通常の風のほかに,知床半島の北方近くを低気圧が通過するとき,前線通過に伴って山脈から吹き降ろす南よりの強い風がある。
この風は局地的なもので,山脈の尾根が比較的低くなっている所の風下側で風力が強くなる。特にルシャ川の河口付近は,背後の山脈が硫黄山と知床岳との間で最も低くなっているため,これが風の通り道となって強風が吹き降ろし,沖合が平穏なときでも河口付近は風浪が強く,時には竜巻状態になることもある。この風を地元の人はルシャの「だし風」とか「おろし風」と呼んでいるという。
ルシャ川の河口付近では,年間を通してほとんど風が吹いている。夏の時期は特に強く、周辺が凪いでいてもここだけは風浪があり,船舶を運航する者にとって要注意箇所だという。
強風で海岸にたどり着けない
歴史に残るのは1959年4月6日に起きた大災害だ。北海道総務部の「ほっかいどうの防災教育ポータルサイト」によると、4月5日は沿海州、日本海、本州南岸の低気圧を含む深い気圧の谷の中に北海道が入っていた。21時に秋田沖に進んだ低気圧(994hPa)が6日9時には網走付近に達し(986hPa)、21時にはさらに発達してオホーツク海中部に進んだ(982hPa)ため、北海道付近の気圧の傾きが大きくなった。
羅臼町では、6日14時ごろから知床山脈を吹き下ろす「だし風」が急激に強まり、雪をまじえて最大45メートルに達するともいわれる暴風となった。
この影響で、知床半島知円別から同ペキンノまで約二十四キロの距離にわたって操業していたスケソウ刺網漁船が、わずか3~4キロの海岸にたどり着くのもままならず次々と遭難、15隻が沈没・転覆し、死者・行方不明あわせて85人に達した。このほか、家屋全壊30、同破損87棟の被害があったという。
「きょうはやめておいたほうがいい」
今回の事故原因は、まだ調査中だが、気象庁は現場付近に23日午前から強風注意報と波浪注意報を出していた。
日経新聞によると、当時の波は2~3メートル、風速は16メートルを超えていた。漁に出ていた地元の漁船も帰港するほどの悪天候だった。地元の観光船会社の中で、23日に海に出たのは、事故を起こした知床遊覧船の「カズワン」だけだったという。
同業他社の船長が出航前に、「きょうはやめておいたほうがいい」と助言、運航会社の元甲板員も「気を付けろよ」と船長に声をかけていたが、船長は「わかった」と、いつもと変わらない様子だったという。
朝日新聞によると、現場周辺は「地の果て」とも称される秘境。携帯電話もつながりにくい場所だという。