ロシア提案「人道回廊」うさんくさい 停戦せずどうやって避難しろと

   ロシアのウクライナ侵攻で、一般市民を安全に退避させる「人道回廊」が注目されている。しかし、軍事攻勢をかけるロシア側主導で提案されていることから、呼称に違和感を持っている人が少なくない。日本の大手メディアの中には、この用語をなるべく使わず、「避難ルート」と言い換えているところもある。

国連安保理で、人道回廊を求める声が相次いだという
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ユーゴ紛争が発端

   ウクライナでは、侵攻してきたロシア軍と防戦するウクライナ軍との間で激しい戦闘が続いている。すでに250万人以上の国民が戦火を逃れ、国外に脱出してとされているが、逃げ遅れている一般市民も多い。

   主要都市の攻略を進めるロシアは2022年3月7日、民間人の安全な避難のための「人道回廊」をキエフなど5つの都市に設置する準備があると発表した。行き先の多くはロシア国内だ。

   この「人道回廊」という日本語は、「humanitarian corridor」という英語の邦訳だ。毎日新聞によると、都市などで戦闘に巻き込まれた民間人の退避や食料などの搬入を目的に、一時的に戦闘を停止させるものだ。 1990年代の旧ユーゴスラビア・ボスニア紛争で国連が提唱したのが最初とされる。その後も、あちこちの地域紛争で設けられてきた。

   同紙によると、国連安全保障理事会(15か国)は3月7日、ウクライナにおける人道状況に関する会合を開いたが、「人道回廊」を求める声が相次いでいたという。

4ルートはロシアへ

   ロシアによる「人道回廊」の提案を白々しくさせているのは、侵略者が「人道」を口走っているということだけではない。提案された6ルートのうち、なんと4ルートが、ロシアもしくはロシアの友国ベラルーシに退避する道となっている。ブリンケン米国務長官は今回の「人道回廊」について、ロシアに抜けるルートを設置するというロシアの提案は「ばかげている」と批判している。

   さらに「シリアの二の舞」になるのでは、ということも懸念されている。時事通信は、ロシアが15年に軍事介入を始めたシリア内戦で、アサド政権側は反体制派が占拠した北部アレッポの東部地区や、首都ダマスカス近郊の東グータ地区などで包囲作戦を展開。「人道回廊」を設置し、市民らに反体制派最後の拠点の北西部イドリブ県への避難を促す一方、抵抗を続けた反体制派には、無差別爆撃や化学兵器を使ったとみられる攻撃を強化した。

   このためシリア内戦での「人道回廊」は、総攻撃をかける前の最後通告の意味合いが強かったとみなされている。ウクライナでも、これから同じことが起きるのではないか、という心配がある。

   ウクライナではすでに国民総動員令が出ている。「人道回廊」を設けたということが口実になって、退避できなかった市民はロシアによって戦闘要員、もしくは準戦闘要員とみなされ、標的にされる可能性もありそうだ。

停戦とセットでなければ

   NHKの番組で、ロシアと欧米の関係に詳しい筑波大学准教授の東野篤子さんは、「人道回廊」について、「時間を区切ってきっちりと停戦をして、人々の避難を促すルートなんですね。なので、きちんとした有効な停戦とセットでなければ全く意味がありません」と語っている。

   ところが、ウクライナでは「人道回廊」の周辺でも戦闘が起きて、市民の死傷者が出るなど、安全地帯ではないと報じられている。「人道回廊」が名ばかりの状態になっている。こうした状況は、報道する側にも影響しているようだ。

   NHKのニュースは、「ロシア国防省は首都キエフなど5つの都市で8日、避難ルートを設置し、これらの地域で一時的に停戦すると発表しました」「"避難ルート"避難開始も... ウクライナ側『ロシア軍が砲撃』」「『避難ルートでもロシア軍は撃ってくる』 と訴える避難者も」など、「人道回廊」を使わずに、単に「避難ルート」と言い換えるケースが目立っている。

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