ロシアの侵攻で「銀歯」使えなくなる? 原料高騰が歯科医院の経営を圧迫
ロシアによるウクライナ侵攻が、「銀歯」に影響しているという。歯科治療でかぶせ物や詰め物に使われる銀歯の材料「金銀パラジウム合金」が、高騰しているのだ。
東海テレビは2022年3月9日、原料の「パラジウム」は、ロシアが世界生産量の4割を占めていると報じた。今後の供給への不安から価格が上がったとのこと。虫歯の治療は問題なく受けられるのか、心配になる。
パラジウムと「金」にも影響
東京都内の歯科保険医約5900人以上が所属する「東京歯科保険医協会」事務局に取材した。金銀パラジウム合金は、厚生労働省の基準に従って、国内のメーカーが生産している。2021年3月ごろ、市場価格は30グラムあたり7万5000円前後だった。これが、22年3月上旬時点では11万円を超えていると話す。パラジウムと同じく、原料である金もロシア情勢の影響で値上がりしていることが背景にある。
保険が適用される医療品の材料は、厚労省が「保険点数」を定め、歯科医院に支払われる医療費の金額を設定している。ただ、歯科医院が材料を仕入れる時には、市場の自由価格に左右される。金銀パラジウム合金を使っての治療も保険の対象だが、材料費が医療費を上回っており医院の経営を圧迫し、損失になるという。材料費の値上がり分、治療代を引き上げて転嫁できない。
ただ、歯科医は診断と治療の責任を負い、さまざまな条件をもとに患者の治療方針を判断する。経営的にはマイナスであろうと、最も適切な手段だと判断すれば、原則として金銀パラジウム合金を使って治療することになるとの話だ。
半面、さまざまな方法での治療が可能なケースなら、高騰している材料での治療を避ける選択はあり得るという。また金銀パラジウム合金が万一、品薄により市場から姿を消し、歯科医が購入できなくなった場合は、銀歯を使っての治療ができなくなる可能性はあると説明した。
医療費も高くなるが...
医療費を決定する保険点数は、実勢価格(実際の市場での価格)に基づいて定期的に変更される。東京歯科保険医協会の事務局では具体的に患者が払う医療費の試算はしていないが、2022年4月の改定により、「金銀パラジウム合金」を使っての医療費は上がる予定だとした。
現在は30グラムあたり「8万8530円」との想定で保険点数が決まっている。これが、4月からは同「9万4470円」という価格に基づいて改定される。
ただ実勢価格に合わせた変更は数か月の時差があり、「9万4470円」というのも21年の9月ごろの市場での価格を反映させたものとのこと。今後も高騰が続けば、保険点数の改定は「後追い」となり、「金銀パラジウム合金」を使えば赤字となる状況に。歯科医からは「代替の素材を治療に使えないか」など、相談の電話が事務局に連日寄せられているとのことだ。